日本政府は8日、東京都に対する緊急事態宣言の発出を決めた。新型コロナウイルスの感染者増大に歯止めがかからず、東京オリンピックへの影響は必至の情勢に。政府によるコロナワクチンの供給遅延もあり、対応の最前線に立つ各自治体の重責は増大する一方だ。そんな自治体が今、不可解な“市民運動”に直面している。
北海道庁、札幌市にノーマスク反ワクチン団体が来庁
十数人の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種に反対する“グループ”が先月29日、北海道庁を訪れた。グループのメンバーは“ノーマスク”で、同庁知事部局の職員が対応し、会談は数時間に及んだという。北海道庁職員厚生課の担当者は次のように語る。
「その後、知事部局の職員2人の感染が確認されたのは事実です。しかしながら、感染経路と一連の対応業務との因果関係は不明です」
また札幌市は今月7日、「札幌市職員が新型コロナウイルス感染症に感染した事案の発生について」と題するプレスリリースを公表した。
市の発表によると、感染したのは同市危機管理対策室・感染症対策室で新型コロナウイルス対応業務にあたっていた職員2人、教育委員会学校施設担当部の保健関係業務担当者1人の計3人。感染症対策室の2人は7月3日、4日に相次いで発症し5日に感染確認。教育委員会の職員は6日に発症し、同日感染が確認されたという。
3人の感染経路は特定できていないとしながらも、市はこの3人の職員について「マスクをしていない来庁者との対応があった」と説明している。同市市議は次のように話す。
「道庁に行ったのと同じグループです。ノーマスクの同一人物に、感染症対策室と教育委員会の職員が各小一時間ほど対応したと聞いています。担当者はマスク着用をお願いしたり、間にパーテーションを挟んで話をしたいと申し出たりしたようですが、先方に拒否された。コロナワクチンに関する疑問を一方的にまくしたてられたようですね」
コロナ禍でのマスクの着用に関して厚生労働省は「心拍数や呼吸数、血中二酸化炭素濃度、体感温度の上昇など着用者の身体に負担がかかるケースがある」と認めつつ、「飛沫の拡散予防に有効」との見解を示しているのだが……。
「そもそも国のそうしたすべての主張が『陰謀論だ』というので、どうにもならない。自分たちの主張を押し通した上で、『全ての国民が反ワクチンの主張に同調する』なんてことは1億人を超える人口を抱えるこの国ではあり得ないでしょう。ましてや自治体の職員になにを求めているのか。単に業務を妨害できればそれでいいのでしょうか。
マスクの着用が体質的に難しいのなら、せめてパーテーションを設置することは認めてもいいはずなのですが、そうはならない。市当局は今後、マスク着用を正当な理由なく拒んだ場合、対面での対応を断るか、退去してもらうことを含めて対応を検討するということです」(同市議)
“ノーマスク”の当人はPCR検査を受けないので感染経路は不明
どうやら他にも“ノーマスク”で“反ワクチン”を訴える住民が各自治体を訪れる事例は増えているようだ。千葉県内の自治体職員は次のように声をひそめる。
「SNSで“反ワクチン”などの特定の意見に同調した住民の方が、マスクを着用せず、コロナやワクチン対応の職員を詰問しに来たことがありました。難しい対応なので、職員は疲労しますし、感染への不安感も大きいです。北海道の事例のように仮に対応した職員が感染したとしても、窓口に来た人は絶対にPCR検査を受けないでしょうし、保健所からの濃厚接触の連絡も無視することが多いそうです。だから『感染経路は不明』という結果になります。北海道の件は決して他人事ではありません。正直、怖いです」
神奈川県内の自治体職員も同様に語る。
「電話での問い合わせはこれまで通り多いですが、『ワクチンに関する質問という体(てい)』でノーマスクでいらっしゃる事例は確かにあります。ネットなどで仕入れた情報をもとに長時間詰問したり、主張をしたりする。幸い感染者は出ていませんが……。コロナ対応部局に1人でも感染者が出れば、一時的とはいえ関連部局の業務は遅滞せざるを得ません。一連のコロナ禍で職員1人にかかっている業務が通常時の比ではないからです。加えて、感染した職員は住民の皆さんへの対応が当面できなくなります。大きなダメージです。
政府が再三にわたってアナウンスしている通り、ワクチン接種は任意です。接種に向けた“同調圧力”に関する注意喚起もしています。札幌市さんの対応は今後、他の自治体でも導入することになるのではないでしょうか」
(文=編集部)