6月26日、富山市内の交番で警察官が刺殺されて拳銃を奪われ、近くの小学校で警備員が撃たれて死亡する事件が発生した。殺人未遂容疑で現行犯逮捕された元自衛官の島津慧大容疑者(21歳)は、拳銃を奪った後、小学校で発砲しているので、児童をねらった無差別大量殺人を起こそうとしていた可能性が高い。
無差別大量殺人犯は先行する事件を模倣することが多いが、島津容疑者が模倣した事件として脳裏に浮かぶのは、2001年にやはり元自衛官の宅間守(2004年死刑執行)が起こした大阪教育大池田小事件である。
宅間は高校中退後、パイロットに憧れ航空自衛隊に入隊するも、「家出少女を数日下宿に泊め、性交渉をもった。少女が下宿を出て保護され、宅間のことをしゃべった」(鑑定書)ため、懲罰委員会にかけられて、1年3カ月で除隊。除隊後、宅間は荒れ、暴行、傷害、高速道路の逆走などを繰り返し、欲求不満を募らせた。
しかも、自分の人生がうまくいかないのを他人のせいにする他責的傾向が強く、検察の冒頭陳述でも「自らは被害者的に物事を考え、都合の悪いことは他人のせいにし、かつ、過去の物事に対して後悔を繰り返しては憤まんを募らせ、これを他人に転嫁する傾向を有していた」と指摘されている。
他責的傾向が強いと、周囲とあつれきを生じやすい。宅間も、両親との確執、幾度もの離婚と失職などのさまざまなトラブルのせいで、孤立していた。挙句の果てに、経済的に行き詰まり、強く望んでいた三番目の妻との復縁もかなわない状況に置かれていて、ベルボーイ暴行事件で大阪地検に出頭を要請されていたその日に事件を起こしている。したがって、にっちもさっちもいかない状況に加えて、新たに刑事罰を受ける可能性が浮上したことを「破滅的な喪失」と受け止めたからこそ、宅間は凶行に及んだのではないか。
島津容疑者は、宅間と同様に欲求不満を募らせていたのか、他責的傾向を有していたのか、孤立していたのかについては、回復を待って慎重に調べなければならない。一方、彼が「破滅的な喪失」と受け止めた可能性が高いのは、事件当日アルバイト先で上司を殴ったことである。そのことを島津容疑者は無料通信アプリ「LINE」で家族に伝えている。実際、勤務中に上司を殴り、いなくなったという。
上司を殴れば、失職しかねない。そのため、「もうだめだ」と思って自暴自棄になったことが引き金になった可能性も考えられる。そもそも、なぜ上司を殴ったのかという疑問を抱かずにはいられないが、自衛隊に同期入隊し、金沢駐屯地でも一緒に勤務した男性が島津容疑者の性格について「ちょっと注意されたことに、すぐカッとなる面があった」と話しているので、そのせいかもしれない。