6月9日夜、走行中の東海道新幹線車内で男女3人が刃物で襲われ男性1人が死亡した事件で、殺人未遂容疑で逮捕された22歳の小島一朗容疑者は、「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」と供述しているという。したがって、この事件は典型的な無差別殺人と考えられる。
無差別殺人は、アメリカの犯罪学者、レヴィンとフォックスが挙げた次の6つの要因が積み重なった末に引き起こされることが多い。
A) 素因
(1)長期間にわたる欲求不満
(2)他責的傾向
B)促進要因
(3)破滅的な喪失
(4)コピーキャット
C)容易にする要因
(5)社会的・心理的な孤立
(6)武器の入手
この6つの要因について、小島容疑者のこれまでの軌跡を振り返りながら検証し、なぜ彼がこの事件を起こしたのか分析したい。
(1)長期間にわたる欲求不満
まず、小島容疑者は定時制高校を卒業後、職業訓練校を経て埼玉県内の会社に就職したものの、約1年後に「人間関係が合わない」と言って退職している。実家の両親とも折り合いが悪かったため、2016年4月頃から実家を出て伯父方で暮らすようになったが、その後、何度か家出をしている。今年1月にも、「俺は自殺するんだ」と言って自転車で家を出て行ったまま、今回の事件を起こすまで帰っていない。
したがって、長期間にわたって欲求不満を抱いていた可能性が高い。同居していた伯父の話では、自閉症の診断で2017 年2~3月に精神科病院に入院していたということなので、自閉症特有のコミュニケーション能力の低さのせいで、人間関係をうまく築けず、それが欲求不満をさらに募らせたのかもしれない。
(2)他責的傾向
自分の人生がうまくいかないのを、小島容疑者が他人や社会のせいにした可能性も考えられる。秋葉原無差別殺傷事件を起こした加藤智大死刑囚は、自分の挫折や失敗を「親のせい」「社会が悪い」などと責任転嫁していたが、同様の傾向が小島容疑者にもあるのではないかと疑わざるを得ない。
というのも、何でも他人のせいにする人ほど、復讐願望が強く、社会に復讐するために無差別殺人を起こす危険性が高いからである。したがって、無差別殺人犯には往々にして強い他責的傾向が認められる。
(3)破滅的な喪失
(1)長期間にわたる欲求不満と(2)他責的傾向があって、爆発しやすい素地ができているところに、(3)破滅的な喪失が付け加わると、暴走を促進する。破滅的な喪失とは、何らかの喪失体験であり、本人が「自分は破滅した」と受け止め、絶望してやけっぱちになる。客観的に見てどうかということよりも、あくまでも本人がどう受け止めたかが重要である。
小島容疑者は、伯父の家で暮らしていた頃から2階の部屋に引きこもってパソコンを触り、「自分は価値のない人間だ。自由に生きたい。それが許されないのなら死にたい」などと話していたということなので、当時からやけっぱちなところがあったように見受けられる。
ただ、最後の一押しになったのは、今年1月の家出のきっかけ、あるいは家出してから遭遇した出来事のように思われる。そのあたりを今後の捜査でくわしく調べるべきだろう。
(4)コピーキャット
コピーキャット( copycat )とは模倣である。無差別殺人犯の多くは、先行する同種の事件を模倣する。
小島容疑者が模倣した可能性が高い事件として脳裏に浮かぶのは、2015年6月30日、走行中の東海道新幹線の社内で発生した焼身自殺である。先頭車両で70代の男がガソリンをかぶって焼身自殺を遂げ、逃げ遅れた女性1人が死亡し、28人が重軽傷を負う大惨事になった。この事件を小島容疑者は模倣したのではないか。
もしかしたら、前日の6月8日の一連の報道に小島容疑者は触発されたのかもしれない。6月8日はくしくも秋葉原無差別殺傷事件からちょうど10年だったし、17年前の同じ日に大阪教育大池田小事件も発生している。2つの事件に関する一連の報道が小島容疑者を後押しした可能性は大いにあると私は思う。