(5)社会的・心理的な孤立
小島容疑者が孤立していたのは、たしかなようである。仕事は短期間で辞めて無職だったし、実家の両親とも折り合いが悪かった。一緒に暮らしていた祖母や伯父ともうまくいっていたわけではないからこそ、家出を繰り返していたのだろう。
(6)武器の入手
アメリカで無差別殺人が多いのは銃の入手が容易だからだとよく言われるが、今回の犯行で使われた凶器は刃物であり、日本でも誰でも簡単に手に入れられる。そもそも、加藤死刑囚が車という誰でも使える凶器で犯行が可能だと示した以上、武器の入手はそれほど重要な要因ではなくなった。その気になれば誰でも無差別殺人をやってのけられることにみな気づいたのである。
拡大自殺
気がかりなのは、小島容疑者が「俺なんて価値のない人間だ。自殺したい」とたびたび口にしており、自殺願望が強かったと伯父が話していることである。事実とすれば、今回の事件を「拡大自殺」ととらえるべきだろう。
無差別殺人犯がもともと自殺願望を抱いていることは少なくない。犯行後に自殺することもある。なぜ1人でおとなしく自殺せずに、赤の他人を道連れにして「拡大自殺」を図るのかといえば、同時に強い復讐願望も抱いているからだ。
「自分はこんなに苦しんでいるのに、楽しそうにしている奴らがいるなんて許せない」という思いにさいなまれ、社会への復讐を果たすべく誰でもいいから殺そうとする。場合によっては、最後に打ち上げ花火を上げたいという願望を抱いていることもある。
今回の事件を模倣するコピーキャット現象によって、「拡大自殺」を図るための無差別殺人が続発するのではないかと危惧せずにはいられない。
(文=片田珠美/精神科医)
参考文献
片田珠美『無差別殺人の精神分析』新潮選書
片田珠美『「正義」がゆがめられる時代』NHK出版新書
片田珠美『拡大自殺―大量殺人・自爆テロ・無理心中』角川選書