トランプ米大統領の外交政策に対するメディアの非難が過熱している。最近それが最高潮に達したのは7月16日、フィンランドの首都ヘルシンキでロシアのプーチン大統領と行った米ロ首脳会談の際だ。
首脳会談後の共同記者会見で、焦点のひとつとなったのはトランプ氏が当選した2016年米大統領選に対するロシア政府の干渉疑惑。この疑惑については、モラー米特別検察官が首脳会談直前の13日、ロシア軍当局者12人を起訴している。だがプーチン氏は「ロシア政府は選挙を含め、米国の内政に一切干渉していないし、今後もしない」と改めて主張した。
注目されたのは、これを受けたトランプ氏の発言だ。同氏は「彼ら(米情報機関)はロシアの仕業だと言う。だがプーチン大統領は今、ロシアじゃないと言った」「ロシアがやる理由は見えない」と同意し、「プーチン大統領は非常に力強く否定した」とその主張を信じる姿勢を見せた。さらにロシア疑惑の捜査を「魔女狩り」と断じ、「世界の二大核保有国の関係に悪影響を及ぼしている。非常にばかげている」と批判。「(トランプ氏陣営と)ロシアの結託はない」とプーチン氏と話し合ったとも語った。
この一連の発言に米国の政官界上層部は猛反発する。共和党の重鎮、マケイン上院議員は声明で「米大統領による、もっとも不名誉な振る舞いのひとつだ」と酷評。「トランプ大統領はプーチン氏に立ち向かう能力がないだけでなく、その意思もないことが証明された」と切り捨てた。
コーツ米国家情報長官は声明で、ロシアによる米大統領選への干渉は「明白だ」と表明。米中央情報局(CIA)のブレナン元長官は「トランプ氏の会見での発言は反逆罪そのものだ。彼は完全にプーチンの手に落ちている」とツイッターで批判した。
米欧大手メディアの論調は、これら政官界エリートの主張をなぞるようなものばかりだ。CNNの看板司会者であるアンダーソン・クーパー氏は共同会見が終わるやいなや、「ご覧いただいたのは、ロシア首脳の前で米国大統領が見せたおそらく、もっとも不名誉な振る舞いのひとつです」とコメント。ニューズウィークは「米ロ会談、プーチンの肩持った裏切り者トランプにアメリカ騒然」、英BBCは「トランプ米大統領、ロシア疑惑でFBI(米連邦捜査局)よりロシアを擁護」と扇情的な見出しでトランプ氏を攻撃した。日本のメディアもほぼ追随している。まさにトランプ非難の異様なまでの大合唱である。
トランプ氏は批判の強さにたじろいだか、わずか1日後、米情報機関の捜査結果を「受け入れる」と軌道修正した。
しかし、トランプ氏に対する非難は本当に正しいのだろうか。
和平路線の足を引っ張るメディア
2016年米大統領選でロシアがトランプ陣営と共謀して選挙に干渉したとされる「ロシアゲート」には、これまで本連載でも何度か疑問を呈してきた。ソーシャルメディアを使ったとされる情報操作が実際に投票行動に影響を与えたのか、トランプ陣営とロシア政府との共謀に根拠はあるのかなど、はっきりしない点が多すぎるのだ。