日ロ首脳会談をめぐる報道を見ても、疑問は解消されない。不確かな根拠に基づいてトランプ氏を感情的に攻撃するばかりで、むしろメディアへの不信感が募る。
そうしたなかでほとんど唯一、頭がすっきり整理される見事な報道があった。米FOXニュースの司会者クリス・ウォレス氏によるプーチン大統領へのインタビューである。ただし見事なのはロシアゲートを事実と決めつけるウォレス氏ではなく、発言をたびたびさえぎろうとするウォレス氏をたしなめながら、理路整然と反論するプーチン大統領のほうだ。
首脳会談直後の独占インタビューで、米大統領選に干渉したとされるロシア軍参謀本部情報総局(GRU)に所属する12人の起訴状のコピーをウォレス氏がプーチン氏に見せると、プーチン氏は改めて干渉を否定したうえで、「ロシア国内から何者かが何百万人もの米国民の選択に影響を及ぼすことができると、あなたは本当に信じるのですか」と反問し、「まったくばかげている」と一蹴した。
プーチン氏は、モラー特別検察官が2月にロシア人13人とロシアのケータリング会社を対象に行った別の起訴は米国の裁判所で係争中だが「干渉の形跡はまだ何も見つかっていない」と指摘。新たな起訴が首脳会談のわずか3日前に行われたことについてウォレス氏が問うと、「米国内の政治ゲームだ」と断言し「米ロ関係を国内の政治闘争の人質にしないでほしい」と苦言を呈した。
かりにロシアがなんらかの情報操作を行っていたとしても、ロシアだけを攻撃するのはバランスを失している。米国の政党自身、選挙の操作に手を染めていることは公然の秘密だからだ。これに関しプーチン氏は、米民主党の大統領指名争いの際、同党全国委員会の幹部がクリントン氏に肩入れし、対抗馬だったサンダース上院議員の活動を妨害しようとした疑いで委員長が辞任した過去に言及した。米メディアは選挙の操作が本当に心配なら、まず自国の政党を徹底して追及すべきだろう。
トランプ氏もプーチン氏も完璧な政治家ではもちろんない。それでも米ロ関係の改善は、世界的な課題である核軍縮に向けた第一歩となるはずだ。ところがメディアは、政治闘争の延長でしかないロシアゲートの追及に血道を上げ、トランプ氏の和平路線の足を引っ張る。いつも平和を守れと唱える日本の報道機関まで右へならえする始末だ。
FOXニュースがユーチューブの公式チャンネルにアップしたプーチン大統領のインタビュー動画には「トランプとプーチンが世界の問題を解決しようとするのに、怒る人がいるとは理解できない」「プーチンは核拡散の危険、シリア、テロ、イラン、国民の相互理解など重要な問題を話しているのに、ウォレスの頭はばかげた選挙干渉でいっぱい。米メディアも落ちたものだ」と批判のコメントが付き、多くの「いいね」を集める。北朝鮮問題を含め、平和外交に対する大手メディアの偏った攻撃に惑わされない賢明な読者が1人でも増えることを願うばかりだ。
(文=筈井利人/経済ジャーナリスト)
●参考動画
Chris Wallace interviews Russian President Vladimir Putin – YouTube