長い間、法曹の世界を目指すなら中央大学法学部といわれたものである。かつては司法試験合格者数で1位。1885年(明治18年)に設立された英吉利法律学校が発祥であり、その実績は法律家を育てる学校として現在まで133年の歴史に裏打ちされたものだった。
大学そのものの知名度としては、東京大学、京都大学などの国立大学や、私立の早稲田大学、慶應義塾大学などと比べれば、中央大学は劣る。法学部だけが傑出した存在であり、在学者やOBは「中央大学法学部出身です」と学部名まで言って胸を張ったものだ。
その中央大学法学部が凋落しているといわれている。昨年の司法試験合格者数は、慶應、東大に次いで3位、中央大学からの受験者数は多く、合格率では10位となっている。偏差値も下がっているようだ。
実情はどうなのか。大学関係者から聞いた。
「今、あんまり法学部って人気ないんですよ。文系人気で今年は私大全体で志願者は7%増えていますが、法学部は5%くらいしか増えていません。中央大学を見ても、志願者数が増えて競争率は全体で5.5倍ですが、法学部は3.6倍です。今の高校生はグローバル志向が強くて、英語を話せるようになるためにがんばっていますし、留学を視野に入れている子も多い。法学部でも国際法という分野もありますが、学ぶのは基本的には日本の法律です。同じように教育学部も人気がないです。これも日本の子どもたちを教える先生を目指すわけですから。
法学部の人気がない理由としては、2年間のロースクールを含めて6年間勉強して弁護士になっても、あぶれてしまって仕事がないという情報が溢れていることもあるでしょう。ロースクールは、新制度が始まった頃は医師国家試験並みに8~9割くらいの受験者が合格するといわれていましたが、蓋を開けてみれば全然そんなことはなかった。その結果、募集を停止するロースクールが増えています」
都心へキャンパス移転で人気上昇も?
法学部離れのなかで、中央大学法学部の凋落は起きているのだろうか。別の大学関係者は語る。
「ひとつ言えるのは、『法学部は看板学部です』というPRができなくなっている。どこの大学でも、ある学部だけを広報するということをやめています。どの学部も平等に扱うようになっています。それによって、たとえば『慶應といえば経済』といわれていましたが、今では法学部のほうが偏差値は上になっています。中央大学法学部のブランド力というのも、東京の子は知っているかもしれないけれど、地方の子は知らないのではないでしょうか。
ただ、凋落とはいっても、司法試験合格者数はトップ3には入ってますからね。いっときは東大、中央、早稲田でしたけど、早稲田はそこから落ちています。司法試験を受けなくとも、国家公務員や地方公務員になるのに法学部は有利ですから、そういったところに進む中央大学法学部出身者は多いですよ。募集人員が多いこともあって倍率が低いし、偏差値も下がっていますが、卒業生の進路などを見ると凋落ということはないと思います。
法学部は現在の多摩キャンパス(東京都八王子市)から、2022年に都心のキャンパスに移転する予定です。今の子は便利な都心で勉強したいという気持ちも強いので、この移転で人気は上がっていくでしょう」
偏差値が下がって入学しやすくなっていながら、司法試験合格者数がトップ3なのだから、法曹の世界を目指す若者にとって、やはりまだまだ中央大学法学部は強い味方なのかもしれない。
(文=深笛義也/ライター)