「分断」という言葉は、今の世界を表現する上でもっともホットなトピックだろう。2016年の2つの象徴的な出来事――アメリカにおける大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選したこと、そしてイギリスが国民投票によってヨーロッパ連合(EU)から離脱を決めたこと――は、世界で起きている「分断」を私たちにまざまざと見せつけた。
しかし、日本にいる限りは、世界の「分断」がいったいどこまで進んでいるのか見えにくい部分があるだろう。世界中を渡り歩き、その社会の変化を見つめている高城剛氏は、『分断した世界』(集英社)でアメリカやEUの「分断」の姿を丁寧にレポートしている。
本連載「ここまで世界は『分断』していた」では、4回にわたってアメリカとEUにおける「分断」の姿を、本書からご紹介していく。第1回はアメリカだ。
トランプ大統領を生んだアメリカの「分断」とは
本書でアメリカを語る高城氏の見方で特徴的なのが、トランプ氏の大統領選勝利を「21世紀の百姓一揆」ととらえている点である。
トランプ氏は共和党から出馬した、というのはまぎれもない事実であるが、高城氏は「選ばれたのは『共和党のトランプ』ではないと考えている」と指摘する。では、いったい誰の支持を受けていたのだろうか?
回答を述べると、そのひとつは「第三極」である。近年、アメリカでは共和党でも民主党でもない、第三極といわれる「リバタリアン党」への期待が高まりつつあった。
リバタリアン党は、「国家は個人の生き方や地域社会に介入すべきではない」という思想を持っており、16年の大統領選において同党から出馬したゲーリー・ジョンソン氏は約449万票と全体の3.28%を獲得した。トランプ氏とヒラリー・クリントン氏の得票差は約260万票だったことを考えても、その多さがわかるだろう。
実は、民主党にも共和党にも期待しないアメリカ国民たちが少なからず存在していた。この二大政党は「自由を尊重する共和党」と「平等を求める民主党」とされてきたが、右か左かの主張を除けばやっていることは変わらない。
特にバラク・オバマ政権による企業優遇の景気対策や弱者保護の政策で割を食っていた白人中流階層は、民主党にも共和党にも期待しない、そしてしがらみのないトランプ氏に票を投じていったというわけだ。
これは「知的階級の富裕層対低学歴の低所得者」という構図でとらえることができない、本当のアメリカの分断の姿のひとつである。
そして、「トランプ氏の支持者は誰か」に対するもうひとつの回答が――これはより具体的な回答となるが――農村部の人々だ。
高城氏は、トランプ氏の支持者を「これまでのアメリカ政治に嫌気が差し、政府に頼ることなく『自分の身は自分で守る』と考えた、独立心を持つ農村部の人々である」と指摘している。
トランプ氏は大統領就任100日を迎える前日に全米ライフル協会(NRA)で演説を行っているが、これは銃に対する批判が多いアメリカにおいては異例のことである。実は、NRAは早い時期からトランプ氏を支持していた。
そして、自衛のために銃を持つことが日常である農村部の人々の支持を受けたことが、トランプ大統領誕生への推進力となった。高城氏は、これを「(アメリカ国民の)アメリカ・ファーストではなく、自分ファーストへと向かう流れの中で起きた現代の百姓一揆」だと指摘する。
“1年で最大の大安売りの日”のブラックフライデーにおいて、16年によく売れたものは「銃」だったという。過去最高の売り上げを記録し、その数は米連邦捜査局(FBI)の統計発表によれば18万5713丁にのぼるという。
「富める者対貧しき者」ではなく、まったく別の顔を見せるアメリカの分断。これは、日本で報道を見ているだけではわからない姿ではないだろうか。
(文=編集部)
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