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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第34回

リストラ部屋に有能な記者に追いやる、大手新聞社の無能な経営陣…内部告発文書飛び交う

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 深井は首をかしげた。過去に、政治記者時代の深井を知る者がその行動に期待してか、匿名で内部告発めいた手紙を自宅に送ってくることがなかったわけではない。しかし、何もしなかった。それもあって、ここ2、3年はそうした手紙も来なくなっていた。

 「怪文書かもしれない。まさか脅迫状じゃあるまい…」

 デスクの抽斗から鋏を取り出し、封を切った。出てきたのはワープロで作成された手紙で、A4の用紙4枚にプリントされていた。

 3枚が手紙で、やはり、記名はなかった。4枚目には「別紙・参考資料」という表題がついていた。深井はぱらぱらめくり、すぐに封筒に戻し背広の胸ポケットにしまった。そして、パソコンを起動し、メールだけチェック、再びスリープ状態にして席を立った。この時、深井の脳裏からは、通勤途中で遭遇した“さざ波”の記憶は完全に消えていた。

 「今日は早めの昼食の約束があるんだ。戻りは午後1時頃かな」

 深井は受付のところで、美舞に声をかけた。資料室には事実上二人しかいないので、片方が出かけるときはお互いに声をかけるようにしている。

 「私は昼休みの時間を少しずらそうと思っているの。戻りは午後1時半頃よ」

 資料室の昼休み時間は、午後0時から午後1時までだが、閲覧者がほとんど来ないので、受付の美舞も昼休み時間を適当にずらしている。

「わかったよ。鍵がかかっていたら自分で開けて入るさ」

 半コートも取らずに急ぎ足で出かける自分の姿に向けられた美舞の怪訝な眼差しを感じ、深井は後ろ向きに右手を上げて、資料室を出た。恰好がおかしかったのか、美舞の甲高い笑い声が聞こえた。そして、ドアが閉まる間際に「行ってらっしゃい」という大声が響いた。

 資料室を出ると、東京寄りの有楽町駅のガードをくぐり、銀座方向に向かった。件の手紙を読むためだった。もちろん、昼食の約束などなかった。外堀通りに面した喫茶店に入ると、まだ昼休みには間があり、奥の4人掛けのボックス席が空いていた。

 深井はホットコーヒーを注文すると、ウエーターの運んできた水を一口飲んだ。そして、背広の胸ポケットから封書を取り出し、手紙を読み始めた。

●後輩から匿名の手紙

 「突然、匿名でお便りを差し上げる無礼をお許しくさい。しかし、『このままでは新聞社が衰退するだけでなく、ジャーナリズムも死んでしまう』という、已むに已まれぬ気持ちで、書いた手紙です。途中で放擲するようなことはせず、是非、最後まで読んでください。勝手なお願いですが、何とぞ、よろしく願いします」
 「さて、私は、深井先輩が大都新聞政治部で活躍されていた二十年前、新米政治記者として官邸で総理番をしていた者です。当時、先輩は、山田商事の背任横領事件をスクープ、報道協会賞を受賞され、いずれは自分も先輩のような記者になりたいと思ったものです」

 ここまで読んだところで、コーヒーが運ばれてきた。手紙を脇に置き、深井はほくそ笑んで「資料室で読まないで正解だったな。後で、舞ちゃんから根掘り葉掘り聞かれたな…」と独り言ちた。

 1日に2回、郵便受けから資料室宛のものを取り出し仕分けするのは美舞の仕事だ。寄贈書籍や雑誌がほとんどで、個人宛の郵便はめったにない。

 美舞は井戸端会議が大好きで、研究所の職員や関係者のことを鵜の目鷹の目で見ている。当然、深井もその対象で、日常と変わったことがあれば、遠回しに聞いてくる。この手紙を読む姿をみられなかったので、聞かれても、適当にごまかせるとほっとしたのだ。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)

※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。

※次回は、来週7月19日(金)掲載予定です。

BusinessJournal編集部

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