社会保障の専門誌によれば、東北大学の辻一郎教授らは宮城県で40歳以上の国保加入者約5万人に生活習慣アンケートを実施した後、各人の医療費データを10年以上にわたって調査した。その調査によると、喫煙者の医療費は、非喫煙者より10%高かった。また、喫煙・肥満・運動不足という代表的な生活習慣リスクのどれも該当しない人に比べて、3つすべて該当する人の医療費は44%も高かった。この集団全体が使う医療費のうち、約13%がこれら3つの生活習慣リスクによるものだった。
これを05年の全国データに当てはめると、40歳以上の医療費26兆9000億円のうち、3兆6000億円が喫煙・肥満・運動不足によるものと換算されるという。膨大な医療費が“健康に関心のない人”によって使われているということだ。
埼玉県は東松山、坂戸、朝霞3市をモデル都市に指定し、2012年度から3カ年計画で「健康長寿埼玉プロジェクト」を始め、その初年度の検証結果を先日発表した。このうち、ウォーキングによる健康づくりに長年力を入れてきた東松山市は「毎日1万歩運動」を実施し、103人が今年2月まで半年間続けた。結果は58人が毎日1万歩の目標を達成し、大東文化大スポーツ・健康科学部の協力で、1万歩運動の開始前と終了後に体力測定10項目、血液検査14項目を行った。同大学が筑波大久野研究室のデータに基づき、医療費抑制額を試算したところ、1人年間8万8961円、103人の総額では900万円を超す医療費抑制につながるという結果が出た。
●リスクに応じた保険料負担
公的保険の保険料は、所得に対する一定率または一定額として平等に徴収される。しかし、医療費の使い方は平等ではないという現実的な矛盾がある。日本は自由社会であり、個人がどのような生活習慣を選ぼうとも、他人に危害を加えない限り、咎められるものではない。しかし、生活習慣リスクは本人の医療費だけでなく、リスクのない人の保険料負担まで増やしている点で、他人に悪影響を及ぼしている。医療保険財政が危機に瀕している今、持続可能なシステムとして、「リスクに応じた負担」が医療保険にも必要ではないのか。
前出の東北大の辻教授は、いくつか具体的に提案している。保険証の更新のたびに身長と体重を測定して、肥満度に応じた保険料を徴収したらどうか。実際に肥満者の医療費は高いのだから、その程度に応じて保険料を上げる。それから、検診で早期がんが見つかった場合、医療費の自己負担率を低くするというのも良い。受診率が上がるだろうし、結果的にがん死亡率は減り、医療費も減るだろう。
民間の自動車保険や医療保険のように、公的医療保険へのインセンティブ導入には反対意見があるかもしれない。しかし、「生活習慣病」という言葉が示すとおり、今や生活習慣ごとの発病確率や医療費までわかる時代である。何が本当の平等なのかを真剣に考えなければならない。
(文=横山渉/ジャーナリスト)