19日に公示される第49回衆議院選挙。最後まで大モメだった自民党の衆院選・山口3区の公認問題は、結局、参院議員を辞職して鞍替え出馬する林芳正元文科相に決まり、河村建夫元官房長官は引退、代わりに長男で秘書の河村建一氏は北関東ブロックの32位で擁立された。10月15日には比例中国ブロックの名簿に登載されるとされたが、18日に変更された。
もともと地元は岸田派の林氏の公認を求めていた。二階派の河村氏は、二階俊博前幹事長のバックアップを受けて選挙区に留まろうとしたが、岸田文雄新総裁の誕生と二階氏の幹事長交代で万事休す。情勢調査でも河村氏は劣勢で、林氏にダブルスコア以上の差をつけられていた。
「ガチンコで戦っても河村氏の負けは見えていた。78歳の河村氏は党の規定により比例重複も難しい。引退して長男に譲るという選択肢が一番賢明だ」(自民党関係者)
河村氏の長男は、一度でも現職のバッジを付けられれば、その次の選挙にも続けて出馬する“優先権”を得られる。
「山口県は定数是正により、来年以降、選挙区が現在の4から3に減る方向。河村氏が長男に譲るなら今回がラストチャンスだった。次回は再度、比例単独で出るか、どこかの選挙区をもらえるだろう。山口は無理かもしれないが、東京に移るという手もある。次回、東京は定数が5増になる予定だから」(前出の自民党関係者)
河村氏にとって引退は苦渋の決断だったとはいえ、“確実な世襲”という意味では粘り勝ちともいえる。この河村氏に限らず、今度の衆院選の自民党新人候補には、世襲候補が少なくとも5人いる。
・山口泰明・前自民党選対委員長の次男、山口晋氏(埼玉10区)
・川崎二郎・元厚労相の長男、川崎秀人氏(三重2区)
・塩崎恭久・元官房長官の長男、塩崎彰久氏(愛媛1区)
・加藤寛治・前衆院議員の長男、加藤竜祥氏(長崎2区)
・竹本直一・前科学技術担当相の娘婿、加納陽之助氏(大阪15区)
自民党は下野する前の2009年の衆院選で一時、「現職国会議員の配偶者と3親等内の親族が、同一選挙区から連続して立候補する場合、公認、推薦しない」という公約を掲げたことがある。しかし、12年、政権に復帰するとすっかり忘れ去り、「世襲」が当たり前の光景となっている。
「以前は、後援会など内輪で相談して世襲を決めていましたが、最近は批判を避けるために『公募』の形を取ることが多くなった。5人のうち川崎氏以外は公募による選考で公認が決定しています。ただし、公募は形式だけで、最初から世襲が既定路線のケースがほとんど。なんやかんやいっても、『地盤・看板・カバン』のある世襲候補はやっぱり選挙に強いですから」(自民党のベテラン秘書)
ただでさえ、解散前には衆参で80人以上もの世襲政治家を抱えていた自民党が、ますます「世襲政党化」するわけだが、そのひとつの象徴が群馬1区だろう。世襲の前職同士が選挙区の公認争いを繰り広げた。
故中曽根康弘元首相の孫で、中曽根弘文元外相の長男の中曽根康隆氏と、尾身幸次元財務相の長女の尾身朝子氏のバトルは、中曽根氏に軍配が上り、尾身氏は比例北関東ブロックに回った。温室育ちの“上級国民”ばかりの政党が、庶民の苦労を理解できるはずはないが、野党も自民党を批判しにくい事情がある。立憲民主党の荒井聡・元国家戦略担当相が後継を長男の荒井優氏(北海道3区)にしているためだ。
かくして政界は、どんどん一般有権者の感覚からズレていく。
(文=編集部)