2月21日21時22分ごろ、胆振地方中東部を震源地とする地震が北海道を襲った。震源の深さは約30キロ、マグニチュード(M)は5.8と推定されており、厚真町では最大震度6弱を観測した。同地域では、2018年9月6日に最大震度7を観測した「北海道胆振東部地震」が発生しており、気象庁は「一連の活動によるもの」「地震活動は当分続く」と発表している。
北海道は昨年の大地震から約半年後に再び大きな揺れに見舞われたわけだが、東北大学災害科学国際研究所の遠田晋次教授は「大地震が起きた地域はその後も大きな揺れが起きやすく、断層による歪みが伝播することによって、札幌市など周辺地域でも強い揺れが起きやすい状態が今も続いている」と解説する。今回の地震の特徴や南海トラフ巨大地震の発生について、遠田教授に話を聞いた。
大地震が同じ場所に集中する理由
――今回の地震の特徴などはありますか。
遠田晋次氏(以下、遠田) 政府の地震調査委員会や地震予知連絡会などで最新のデータを見ましたが、基本的に昨年9月の北海道胆振東部地震の余震であると考えています。北海道胆振東部地震はM6.7でしたが、今回の地震はM5.8です。世界的なデータ調査によると、最大の余震は本震よりもM1前後小さくなることが多いため、一般的な余震と見ていいでしょう。
ただし、気象庁も政府の地震調査研究推進本部も「余震」という言葉は使わなくなっています。これは、16年の熊本地震の教訓によるものです。熊本地震では、4月14日夜および16日未明に震度7を観測しました。余震には前の地震より大きくなる場合がごくまれにあって、余震のほうがその後に「本震」と呼ばれるケースもあります。一連の熊本地震がそうでした。ですから、そのあたりに注意して「余震」ではなく「一連の活動」という言葉を使っています。
また、データを細かく見ると、今回の地震の発生メカニズムは昨年の地震で動いた断層の一部によるものであることがわかります。そのため、断層のずれ残りが動いたと見ています。
――我々は余震に対する考え方も変えていく必要がありますね。
遠田 余震といえば、体感する揺れは2~3週間で収まるイメージがありますが、高感度で計測している地震計では何十年も余震を観測するケースがあります。たとえば、2005年に福岡県西方沖地震、2008年に岩手・宮城内陸地震が発生しましたが、現在、当該地域の地震活動を見ると、いまだ小さい地震が続いています(防災科学技術研究所のサイトではリアルタイムの地震活動が表示されます。確認してみてください。http://www.hinet.bosai.go.jp/hypomap/)。それが、ときに大きな地震・揺れになることもあり得るのです。
たとえば、2013年4月に淡路島中部地震(M6.3)が発生しましたが、これは1995年に発生した阪神・淡路大震災の余震と見られています。つまり、余震というのは10~30年ほど続く可能性があるということです。そして、一度大きな地震が発生した地域では、その近傍で地震が発生しやすくなることがわかっています。
――過去に大地震が起きた地域は、その後も注意が必要ということですね。
遠田 地震が起きると断層が大きく動き、蓄積されていた断層の歪みは解消されます。ところが、そのしわ寄せが周りの断層に影響を与えてしまいます。崩れたバランスが完全に元に戻るまでに何十年もかかります。特に最初の数年は注意すべきです。
約30年前までの地震学では、「一度大きな地震が発生すると断層のゆがみが解消され、その後しばらくは地震が発生しにくくなる」というのが常識でした。しかし、最近の知見では「一度ある地域で地震が発生すると、その近傍で地震が起きやすくなる」ということがわかっています。もちろん、場所によっても変わってきますが、このことは認識しておいたほうがいいでしょう。
今年1月にも、2016年に大地震が起きた熊本で最大震度6弱の地震が観測されています。これも、最近の知見に基づけば約3年前の余震のひとつと見るべきです。
南海トラフ巨大地震の発生は“黄信号”?
――個人や行政はどのような備えをすべきでしょうか。
遠田 個人でできることは、まずは家具の固定や非常持ち出しバッグの準備、避難経路の確認などでしょう。行政は、長いスパンで地震に強い街づくりを行うことが必要です。気をつけるべきは、一度大きな地震が起きればそのうち静かになるというわけではなく、断層のひずみは周辺に伝播し、地震が発生しやすい状況はしばらく続くということです。
たとえば、今回は厚真町でしたが、今度は札幌市など別の地域を大地震が襲う可能性もゼロではありません。そのため、周辺地域はこれまで以上に注意が必要です。個人も行政も、地震への対策や備えを念頭に置くことが重要です。
――発生すれば甚大な被害が予測される南海トラフ巨大地震については、いかがでしょうか。最近、東海地方では岩盤の境目がゆっくりとずれて動く「スロースリップ」による地震が観測されているようです。
遠田 相模トラフから南海トラフにかけて、深部低周波地震や深部低周波微動が観測されています。揺れとして体感できない地面の動きですが、地震計やひずみ計で観測されています。それに伴い、プレートの境界でゆっくりと滑る動き、スロースリップと呼ばれる現象が発生しています。
この動きは、関東の房総沖から九州の日向灘にかけて数年ごとに観測されているほか、沖縄の南西諸島でも起きています。一度起きると、場所によっても異なりますが、数日~数カ月続きます(東海地方では数年続く場合も)。今年になって、四国と九州に挟まれた豊後水道でもスロースリップが起こっています。房総沖をはじめ、スロースリップが継続している地域とその期間は、一時的に巨大地震が起きやすい状況といえるかもしれません。要注意です。
世界的に見ても、スロースリップが続いている間に巨大地震が発生した例があります。将来、気象庁が巨大地震の発生確率について「グリーン」「イエロー」「オレンジ」「レッド」と順次、危険度を分けることがあれば、豊後水道あたりは現在「イエロー」の段階といえるかもしれません。
(構成=長井雄一朗/ライター)