歌手で女優の神田沙也加さんが亡くなる少し前、交際相手とされる俳優の前山剛久から強い言葉で罵倒される様子を録音した音声の内容を、5日付「文春オンライン」記事が報じた。
沙也加さんは先月18日、公演中の「マイ・フェア・レディ」に出演のため滞在していた札幌市内のホテル高層階から転落し屋外スペースで倒れているところを発見され、病院に搬送されたが、死亡が確認された。自殺の可能性も取り沙汰されていたが、沙也加さんの所属事務所は「転落の原因につきましては、神田本人の名誉と周囲の方々への影響を踏まえて公表を控えたく、お含みいただけましたら幸いです」とのコメントを発表している。
沙也加さんが亡くなった直後から、複数のメディアが、沙也加さんは「マイ・フェア・レディ」で共演する前山と交際中であり、沙也加さんが2人の関係について悩んでいたと報じていた。
前山本人は所属事務所を通じ、「神田沙也加さんと真剣なお付き合いをしており、将来を見据えたお話もさせていただいておりました」とのコメントを発表。さらに文春オンライン記事が公開された5日には公式サイト上で「昨年末より心身に不調をきたし現在も治療を続けておりますが、未だ仕事をすることが困難な状況にあるため、出演を予定しておりました舞台『ピアフ』を降板させていただくこととなりました」と報告。さらに、「治療に専念するため、当面は活動を休止させていただくことを併せてご報告申し上げます」と、芸能活動の休止を表明した。
前出「文春オンライン」記事によれば、話し合いのなかで沙也加さんが前山から罵声を浴びせられていたという。そのなかで前山は繰り返し「死ねよ」と罵声を浴びせ、沙也加さんが泣き崩れる様子が録音されている。
この記事が公開されると、インターネット上を中心に前山に対する批判の声が増大し、なかには自殺教唆に当たるのではないかと指摘する向きも少なからずある。「死ね」との暴言を繰り返し浴びせられた人が実際に自ら命を絶った場合、自殺教唆の罪に問われる可能性はあるのだろうか。
山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士は、「この音声だけでは、自殺教唆と評価することは困難です」と語り、前山の発言がきっかけで沙也加さんが自ら命を絶っていたとしても、刑事責任を問うことは難しいとの見解を示す。
2013年に、慶應義塾大学3年生だった男が交際相手の女性に携帯電話で「死ねよ」などとメッセージを送り、女性がマンションから飛び降りて亡くなった事件で、男が自殺教唆で逮捕されたが、この場合とはどこが異なるのだろうか。
「慶大生事件の場合、『手首切るより飛び降りれば死ねるじゃん』などと、より具体的に指摘して『自殺を決意させた』と評価できるので逮捕に至っていますが(その後、起訴・有罪となったかどうかはわかりません)、今回の場合、沙也加さんに『自殺を決意させた』とまでは評価できないので、自殺教唆とはならないでしょう」
前山と沙也加さんは結婚を前提に交際していたと公表されているが、日常的に精神安定剤を使用していた沙也加さんが、信頼していた前山に暴力的な言葉を浴びせられ、絶望感を味わっていたことは間違いない。
前山の刑事責任が追及されないとしても、芸能活動の再開は厳しいとの見方が広がっている。
(文=編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)
時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。