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アイリーン・スミスさん、原一男氏が語る”普通の人が追い込まれる”水俣の悲劇

文=編集部
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原一男監督(左)とアイリーン・美緒子・スミスさん(撮影=編集部)

 熊本県水俣湾のチッソの化学工場からの排水に含まれていたメチル水銀が原因とされる中毒性中枢神経疾患「水俣病」が公式に確認されてから今年5月1日に66年を迎える。患者認定の申請は半世紀を超えた今なお続き、患者らが国などに賠償を求めた訴訟は終わっていない。しかし、国内全体の同問題への関心は“高いとはいえない”というのが現状だろう。

 そんな中、水俣病を描いたふたつの映画が昨年、注目を集めた。ひとつはジョニー・デップ主演で、9月に公開された米映画『MINAMATA』(ロングライド、アルバトロスフィルム)。映画原案は水俣病の実態を活写し、世界に伝えた米写真家ユージン・スミスさん(1918~78年)と元妻のアイリーン・美緒子・スミスさん(71)が手がけた写真集『MINAMATA』(Crevis)だ。ジョニー・デップはユージンさんを演じた。

 もう一つは11月に公開されたドキュメンタリー映画『水俣曼荼羅』(疾走プロダクション)。ドキュメンタリー映画の鬼才、原一男監督(76)が撮影15年、編集5年の計20年をかけて、患者認定をめぐる裁判闘争を追い、水俣の人々の恋愛や結婚、病因を証明しようと葛藤する学者らの“等身大の姿”を描き、話題になった。

 再び、世間の注目を集め始めた水俣病に関し、公益社団法人日本ジャーナリスト協会(JAJ)は13日、シンポジウム「水俣のこれまでと現在、そしてこれから」を東京都内で開いた。アイリーン・美緒子・スミスさんと原一男監督が登壇し、それぞれの作品の撮影秘話や水俣病の問題を通じてみる日本の構造的な問題を語った。

米映画の原案となった写真集『MINAMATA』も再刊行

 アイリーンさんは米映画『MINAMATA』の製作陣からのオファーのあった経緯などを説明。大きな反響があったことを挙げ、「世界中の人に知ってもらう良い機会だと思った一方、怖いとも思った」と心情を吐露した。また、これまで絶版となっていた写真集『MINAMATA』を再刊行したことを報告した。

 またユージンさんとアイリーンさんが撮影し、同問題を示す象徴的な写真となった「入浴する智子と母」をめぐる撮影時の模様や、被写体となった上村智子さんやユージンさんが亡くなった後、智子さんの母から「(智子さんを)休ませてあげたい」などと言われ、公開を止めた経緯なども明らかにされた。

原監督が作品で切り込む水俣地域の「性や恋愛というタブー」

 原監督は『水俣曼荼羅』で話題になった、胎児性水俣病患者の坂本しのぶさん(65)が過去に交際した3人の男性を1人ずつ訪ねていくシーンにも言及。坂本さんを“恋多き女性”として描いたことについて、原監督は「人間を描く時に、性愛とお金をめぐる姿勢というのは大きなテーマだと思います」と語った。

 世界的に知られる記録映画作家の土本典昭氏のドキュメンタリーで描かれなかった、水俣の人々の“結婚や性”や“死”といったタブーにあえて挑戦しようとしたのだという。

 原監督は、坂本さんが水俣条約(水銀に関する水俣条約)に関する活動や患者認定運動などで多忙を極めていたことを振り返り、「映画では次々に訪ねて行っているようにみえるのですが、実は1年に1人会いに行くというペースで撮影しました」と撮影時の裏話を語った。

 また水俣病患者に起こる感覚障害の原因について「脳の中枢神経説」を主張する熊本大学の浴野成生教授や二宮正医師に関しても言及。作中で二宮医師が「セックスの感覚がわからなくなる」と嘆くシーンにも触れ、原監督は「五感の感覚障害と作中では語りました。しかし、もう一つの感覚、性の感覚に関することは説明しにくかった。しかし、間違いなく大きな問題だと思う」などと述べた。また原監督は同作品に込めた思いについて次のように語った。

「これまで公害をあつかった映画は良い映画もあったんでしょうが、“被害者は正義である”という作品が多かったように思います。(水俣のように)本当に“100年間、なんの問題も解決しようとしない”という状況の中にいる時、当の被害者、当事者たちさえも“解決しない”という渦の中に巻き込まれていきます。

 この作品で、“どんな風にひとりの人間が追い詰められていくのか”というのをちゃんと描かくなくてはいけないと思っていました。映画を見た人が、じゃあ、あなたはどうするのか、行動を促すような作品にしたいと思いました」

 またアイリーンさんは一連の水俣病をめぐる市民運動の特色として以下のように強調した。

「日本の社会には良いところもあります。それは、(水俣病患者に対する)支援が根気よく続き、被害者が強くつながることです。アメリカのスリーマイル島の原発事故の際、原告らは他の原告のことは何も知りませんでした。日本では手弁当で活動する弁護士もいるのです。“つながる”ことが日本のキーワードだと思います」

 アイリーンさんは1970年代に最盛期を迎えた水俣病に関する市民運動を振り返り、「私たち70代がもう一回何かをやる、20代の人が観劇するようなことを示していかないといけない。アートやストーリーによって人は心を動かされる。原監督の作品中にあった坂本さんのインタビューは素晴らしい。(そうしたストーリーが)人間のパワーになると思う」と呼びかける。

 原監督も水俣病をめぐる国家賠償訴訟の判決が3月に出ることを踏まえ、「映画を見て少しでも多くの人に水俣の現在を知ってもらい、大きな動きにしてほしい」と語った。

 シンポジウムの全内容は下記JAJのYouTube公式アカウントからも閲覧できる。

(文=編集部)

 

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