23日に放送されたテレビ番組『池上彰が直撃取材!リニア新幹線とニッポンの未来』(テレビ朝日)で、リニア中央新幹線建設で静岡県の工区の着工が始まらない問題が取り上げられ、SNS上では一部で“静岡県を悪者にしているような番組”だという声もあがるなど、物議を醸している。
静岡工区をめぐっては、南アルプストンネルの工事期間中に湧水が約500万トン、山梨県側に流出すると試算されており、大井川流域の水量が減少する懸念があるため、静岡県の川勝平太知事は県内の工事許可を出していない。
これにより、昨年12月にJR東海の金子慎社長も「(開業の)メドが立っているわけではない」と認めるなど、27年の開業が困難になっている。
同番組内ではジャーナリストの池上彰氏が金子社長にインタビューを敢行。まず、リニア建設の目的について金子社長は、一日当たり15万人以上が行き来する東京・名古屋・大阪を結ぶ太い動線である東海道新幹線の災害時のバイパスをつくることであると説明。また、一部で懸念されている巨額の工事費用負担によるJR東海の財務圧迫の可能性について、
「収入が(コロナ前の)2018年度の9割まで戻れば、年間3000億円くらいを、100%なら4000億円を投入できる。十分つくれる」
と説明した。
金子社長「“なんとかしたい”という気持ちはあるんですが」
そして池上氏が「静岡県知事が強硬に、こう難色を示していますよね? これは想定外でしたか?」と切り出すと、金子社長は白い歯を見せながら“ハハハ”と笑い、次のように述べた。
「まだ静岡県が納得をいただけるような案がお示しできていないわけですが、おっしゃっていることは分かりますから、ぜひ努力をしていきたいと思います。“なんとかしたい”という気持ちはあるんですが、具体的提案ができるまでの形のものになっていないとうことです。
想定外というとあれですが、このプロジェクトは大きなプロジェクトで、リニアという事業を私たちがやると言わなきゃですね、(住民が)心配なさったり不安になることもなかったわけなんで、そこは申し訳ないと思っておりますので、なんとか一旦、こういう不安や懸念が生じたことはですね、しっかりと不安を解消するというか、払拭するよう努力をしていかなくちゃいけないと思っております。
まだ(課題が)残っているところはありますが、地域のいろんな心配に私たちは一生懸命に汗をかいて取り組むつもりですから、そういうことを前提にですね、ご理解をいただきたいということです」
インタビューのVTR終了後に司会のアナウンサーに「(金子社長は)知事には会いたいような、会いたくないような、どうだったんでしょうか?」と聞かれた池上は、
「タイミングを探るという言い方をしてましたね。今そのまま行っても、はねつけられるだけだから、なんらかの案を持っていかなければならない。それを一生懸命考えている、そんな状態でしたね」
とコメントした。
続けてスタジオのガダルカナル・タカは、次のように持論を展開した。
「(金子社長は)“一生懸命がんばってる”と言ってくれてるんですけど、“じゃあ、どうする?”ってものが、はっきり見えない状況だと、知事としてもなかなか“うん”と言えない気持ちもわかりますし、ただ、知事のほうも、これだけ“水が大切だ心配だ”というのであれば、もっともっとJRの社長のところに押しかけて行って、話をするってことも、してもいいのかなという気がするんですけどね」
ルート変更案と部分開業案を否定
番組内では建設に反対する静岡県民たちの声を紹介するVTRも紹介され、池上氏が「川勝知事の発言、一挙手一投足で、周辺が“どうなるんだろう?”と思う、JR東海が頭を抱えるという、そういう状況が続いてますよね」と解説する場面も見られた。
このほかにも、インタビューで金子社長が静岡県をルートから外す「ルート変更案」について、整備計画・環境アセス・工事認可・工事開始・土地取得など「法律に基づき、いろんなステップを踏んでやってきている」ため、「現実的なことを考えると、ちょっと難しいというのが、私たちの考えです」と否定。さらに、静岡工区をのぞくかたちでの「部分開業案」についても、
「(東海道新幹線の)バイパスにならないんですよね。途中、山梨県側から岐阜県、長野県側から、やっぱり通じないと意味を持たない。品川から名古屋まで結んで初めて大きな機能を発揮するプロジェクトですから」
と明確に否定したが、放送中からSNS上では、次のように放送内容に疑問の声が多数あがる事態となった。
<「静岡県民と知事が悪」の印象操作が酷かった>(原文ママ、以下同)
<開通しないのは静岡が静岡がって 世間からのイメージを静岡が悪みたいなイメージを植え付ける様な番組をやっててほんまやり方おかしい>
<報道の仕方ひとつで、静岡県民がこのようにも言われるわけです。なぜ静岡県民がこのように言われなくてはいけないのでしょうか…>
<一見“中立です”風の番組>
<なんで県民がこんなに反対してるのかもっと詳しく掘り下げて欲しかったなあ。ごねてるって感じの番組に見えて悲しい>
<リニアは国家プロジェクトだと言い方すり替えて静岡県民を脅すJR東海金子社長と池上彰>
<ただのJR東海アゲ番組>
<JR東海の提供じゃないのか(笑)>
<リニア絶賛番組?>
確かに番組内では、「品川まで45分!待ちわびる“長野県駅”で」「リニア開通『できるだけ早く!』愛知・大村知事“熱弁”」などのテロップと共に開業を待ちわびる他県の住民の声が紹介される一方、それとは対照的に開業に反対する静岡県民や川勝知事のVTRが紹介されており、“静岡県だけが反対しているせいで開業が困難になっている”と受け止める視聴者も出ているようだ。
「番組内ではJR東海社員の案内で、リニア工事の現場を池上氏がレポートする場面なども見られ、番組制作においてJR東海の協力を受けているのは事実」(テレビ局関係者)
見えない打開の兆し
全国紙記者はいう。
「そもそもJR東海が工事着工前に、環境アセスで水の問題を把握した上でしっかりと静岡県に伝えて、工事の合意を取り付けていなかったことが問題の発端。JR東海現名誉会長の葛西敬之氏が安倍晋三元首相の強力な支援者だったこともあり、安倍政権時代に国がリニアの開業前倒しや財政投融資資金の投入を表明して、計画が一気に加速したが、国の全面的なバックアップもあったことから、JR東海も“一県の問題くらいなんとかなる”と軽く考えていた節もある。
ただ、静岡の川勝知事はリニア工事反対を掲げて昨年再選されており、少なくてもあと4年は着工できないという見方も強い。この問題では一貫してJR東海の金子社長は“静岡の反対で開業は困難”“最大限努力する”と言いつつも、いまだに水の問題をどうするのか具体的な方法を示していない。打開の兆しが見えず、このままだと延々と膠着状態が続く。JR東海はどうするつもりなのかも見えてこない」
金子社長は同番組のインタビューで、リニア開業によって「(東京・大阪・名古屋がつながり)一つの巨大都市圏になる」と語るが、いったいそれは、いつのことになるのだろうか――。
(文=編集部)