窪田正孝が主演を務める連続テレビドラマ『ラジエーションハウス ~放射線科の診断レポート~』(フジテレビ系)の第3話が22日に放送され、平均視聴率は前回から0.8ポイント減の11.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことがわかった。第1話から3話連続の2桁キープであり、2016年以降の月9ドラマのなかでは今のところ『コード・ブルー ~ドクターヘリ緊急救命~3rd season』(2017年7月期)に次ぐ高水準を保っている。
このドラマは、レントゲンやCTで病変を写し出す放射線技師・五十嵐唯織(窪田)が「病の写真家」として、目には見えない患者の病気を見つけ出し、命を救っていく医療ドラマだ。第3話は、原作でも反響が多かったという、乳がんにまつわるエピソードを描いた。劇中でも触れられていたが、乳がんは日本人女性の11人に1人がかかるとされており、数ある病気のなかでもかなり身近なものである。
そのため、乳がんで肉親や知人を亡くした人や、自身が乳がん経験者である人も少なくない。むしろ、身の周りにそのような人がいない人のほうが珍しい。筆者もその例に漏れず、肉親に乳がん経験者がいるし、友人のひとりは小学生の時に乳がんで母親を亡くして、今は乳がん啓発活動に取り組んでいる。そんなこともあって、今回のエピソードについてはドラマとして客観的に見ることができなかった。インターネット上にも「肉親に乳がん経験者がいるのでひとごととは思えなかった」といったような書き込みがいくつも見られた。
だから、今回のエピソードに限っては、脚本がどうだとか役者の演技や演出がどうだとかを論じる気にはなれない。といってもそれでは記事にならないので、ここからは「ラジエーションハウス第3話は良かった」とひたすら書くことにする。
第3話は、端的に言えば「マンモグラフィー検査では見つからない乳がんもある」という事実をドラマの形で世間に知らしめた。これはある意味衝撃的な啓発である。マンモ検査の受診率はまだまだ低いが、それでも「乳がん検査=マンモグラフィー」との認識は男女を問わず相当程度浸透しているからだ。
劇中では、毎年乳がん検査を受けていた女性・葉山今日子(内山理名)に乳がんが見つかる。だが、当初はマンモグラフィー検査で「異常なし」と診断されていた。なぜこんなことが起きるのかがこの回の重要なテーマとなっていた。
実は葉山は、乳房内の乳腺密度が高い体質「デンスブレスト」だった。これは病気ではなく、日本人の5割が当てはまるとされる。だが、マンモグラフィー検査では乳房全体が白く写ってしまうため、乳がんを発見することが難しい。しかし、画像を基に診断を下す放射線科医は、画像には乳がんらしきものが写っていないからと「異常なし」と診断せざるを得ない。
もちろん、そんな病院ばかりではなかろう。インターネット上にも、「マンモ検査だけではわからないからと医師からエコー検査を勧められた」との体験者からの書き込みが見られる。ドラマでは窪田演じる五十嵐がその役割を務め、葉山にエコー検査とMRI検査を勧めた。その結果、マンモグラフィーでは見つからなかった乳がんが見つかり、葉山は片方の乳房を全摘しなければならなかったものの仕事に復帰することができた。
このエピソードは、我々にいくつもの重要なことを教えてくれた。繰り返しになるが、まずマンモグラフィーは万能ではないこと。日本人の半数以上はマンモグラフィーに乳がんが写りにくい「デンスブレスト」であり、自分がそれに該当するかどうか知っておくべきこと。マンモグラフィーに写りにくいがんを発見する別の検査方法があることなどだ。
だからといってマンモグラフィーを軽んじるわけではなく、毎年受けることに意味があるとのフォローがしっかりとなされていた点もよかった。インターネット上には、「乳がん検査の大切さが伝わるとても良い話でした」「自分に置き換えて、考えながら観ることができた」「決して他人事ではない内容だった」「デンスブレストなんて初めて知った」「おもしろくて為になった」「検査に行かなきゃなと思えた」といった反響が数多く書き込まれた。
葉山には、結婚を約束した男性がいた。葉山は彼に、乳がんで右の乳房を取らなければならないと告げる。それを聞いた彼は少しも動じることなく、「手術すれば助かるんだよね?」「見た目が変わるのなんてお互い様だよ」とすんなり彼女の言葉を受け止め、手を取って歩き出した。
さすがに人間ができすぎていると思うし、理想を描いたファンタジーだなとも感じた。その一方で、温かな結末に目頭を熱くしたのも事実だ。どんな病気にも言えることだが、特に乳がんについては、家族やパートナーの理解と支えがとても大切だといわれる。「乳がんになったパートナーをどのように支えるか」の理想像のひとつを描いた点でも、この回は優れていたといえよう。
第3話はクセのある演出もなく、整形外科医の辻村(鈴木伸之)と五十嵐が甘春杏(本田翼)をめぐって軽く火花を散らしたのを除けばメインストーリー以外の無駄な要素もなく、乳がん啓発の教材としてそのまま使えそうな内容だった。多くの女性の命を救うかもしれない情報がドラマの形を借りて興味深く放送されたという点で、称賛に値する回であったと評価したい。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)