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学生のキャリアを“妨害”する、大学の非常識な実態〜コンプラ違反、学生を犠牲…

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学生のキャリアを“妨害”する、大学の非常識な実態〜コンプラ違反、学生を犠牲…の画像1「Thinkstock」より
 前回記事『大学経営の、非常識なあきれた実態〜コスト意識なし、責任回避システム、形式主義…』では、民間企業では考えられない、大学経営のあきれた実態を紹介したが、そうした組織体質が、「架空発注事件」にまで発展した例もある。

 横浜市立大学では2009年、「架空発注事件」が発覚した。大学付属の市民総合医療センターの前院長が事務用品会社に架空の発注をし、大学側から振り込まれた3500万円が業者の口座に「預け金」としてプールされていたのだ。この事務用品会社は見積書など形式を整えるだけで、実際には税金がずさんに使われていることを示す一例だ。関係者は戒告などの懲戒処分にされたが、世間的には軽い処分だろう。民間企業ならば背任や詐欺の疑いをかけられ、場合によっては刑事告訴されるかもしれない。

キャリア妨害』(東京図書出版)の著者で、大手電機メーカー人事部門の経験を買われて横浜市立大学に転職し、キャリア支援の責任者として、学生の就職支援などキャリア開発に民間企業の発想を採り入れる改革を行ってきた菊地達昭氏によれば、大学の職員の意識や能力も低かったという。

 菊地氏が「ベンチマークしなさい」と指導しても、その意味がわからず、駅のベンチに印を付けることだと思っている職員がいたといい、また、大学の人事課長が「キャリアカウンセラー」という言葉の意味も知らなかったという。これも笑える。

 こうした能力の低さが、コンプライアンス上の問題も引き起こした。大学に転職してきたある職員は、給料などの労働条件を正式に示されなかったばかりか、採用された後に3年の契約社員であることを知らされたという。労働基準法や施行規則では、書面での提示を義務づけており、明らかに法律上問題のある行為だ。

 さらに問題なのは、大学に採用される新卒のすべての職員が3年契約の非正規雇用となっているのに、大学側は「正規職員で、契約更新回数に制限はない」と誤解を与えるような説明をしているという点だ。正規か非正規かは大きなポイントであるはずだ。

●世間の常識からずれた教員たち

 教員の発想や行動も、世間の常識からずれたものが多かった。

 ある時、菊地氏が文部科学省により義務付けられている卒業生の進路調査をするために、学長以下教員が出席する会議で情報収集への協力を求めたら、ある学部長が「個人情報の収集には学部としては一切協力できない」と言い放った。卒業生の進路情報は、進学を目指す学生や保護者にとっては参考にしたいデータであり、大学教育の成果の一つと言えるものだが……。

 仕方なく、菊地氏は協力的な教員を探し、個人レベルで情報を収集し、ほぼ100%の進路情報を獲得できた。すると、協力を拒否した学部長が、さまざまな指標で大学を評価したいので、その進路調査のデータが欲しいと言ってきた。菊地氏は「年金の掛け金を支払わないで年金をくれと言っているようなものである」と指摘している。

●グローバル視点の欠落

 横浜市大が学部を再編し、国際総合科学部を新設したのに、グローバルという視点が教員から欠落していた。

 ある年に、ディズニーワールドでのインターンシップとノースカロライナ大学への留学を組み合わせたプログラムに、学生を派遣することが理事長や学長の判断で決まったが、現場では1年半も継続審議にしたまま何も前に進んでいないようなケースもあった。

 一流大学では、海外の一流大学との国際提携を増やして、単位の互換を認めるなどのシステムを導入するケースが増えているが、横浜市大ではこうした取り組みが遅れていた。この話を菊地氏が学部長にすると「横浜市大からハーバード大学に留学できる学生はいない」と言い放ったという。留学できる学生がいるかどうかではなく、システムとして認定できるかが重要なのに、学部長らの不作為な行動が結果として学生のキャリア形成を妨害していることになる。

 本書では、本質的なコスト削減を無視したずさんな大学運営をしておきながら、教育という大学の根幹をなす分野でコスト削減をしすぎて、学生のキャリア育成を妨害していることも指摘されている。

 例えば、再編による国際総合科学部の誕生によって、取得できる教員免許数が削減された。それまでは、司書や高校の地理歴史・公民などの免許が取れていたが、取れなくなった。さらに大学側が厚生労働省に提出する「単位読み替え」などの手続きの不備によって、横浜市の社会福祉職を希望する学生に受験資格がないことがわかったケースもあった。

 そのほかにも、信じられないような事例が多々紹介されている。医学部出身の前副学長が、自分の娘の博士論文の審査に参加した非常識な問題や、医学博士号と引き換えに学生に金銭を要求した「事件」など挙げればきりがない。金銭を受領した教員はもちろん懲戒処分(停職)を受けているが、自ら退職願を出すことで退職金は受け取り、中には名誉教授の称号を得た者もいるそうだ。

 大学による学生の“キャリア妨害”は、横浜市大だけの問題ではないように筆者は感じる。こうした「大学崩壊」が、日本人の劣化すなわち社会を支える人材の育成力劣化の一因につながっているのではないか。納税者や保護者は、大学の運営にもっと目を光らせるべきである。
(文=井上久男/ジャーナリスト)

BusinessJournal編集部

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