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自衛隊、超絶ブラックな就業実態…サービス残業は当然、優秀な人ほどすぐ辞める

文=川村洋/フリーライター
自衛隊、超絶ブラックな就業実態
自衛隊の大規模ワクチン会場(「Getty Images」より)

 ホワイトか、それともブラックか――。今では就職先を考えるとき、就業環境はその企業を推し量る際の基準となっている。令和の現代でも、社員数が多く経営母体がしっかりしている企業ほどホワイト度が高く、その逆であればブラック度が強いと捉える向きもあるくらいだ。

 では、民間企業ではなく公務員、それも約25万人の隊員数を擁する陸海空自衛隊はどうか。身分は特別職国家公務員で、衣食住完備、安定した給与で福利厚生も手厚い。これだけをみれば、紛うことのなきホワイト企業である。

数字の上では自衛官の不祥事件数は公務員で最多?

 しかし、今年に入ってからだけでも数多くの不祥事案が報じられている。以下はその一例である。

『「いざこざがあったので…」鍵穴に接着剤、水に灯油、故意にデータ消去 同僚に嫌がらせ 自衛官を処分』(2月1日付神戸新聞NEXT)

『海上自衛官が暴行し停職1カ月の懲戒処分 海上自衛隊鹿屋航空基地』(1月24日付KTSライブニュース)

『「仕事や人間関係がつらい、やめたい」と話していた自衛官、門限過ぎても戻らず…10時間余りで父親から連絡、減給処分』(2月4日付HBC北海道放送)

 もっとも、これらは自衛隊という組織ではなく隊員個々人の不祥事であり、これをもって自衛隊という組織のブラック度が高いなどと語るつもりは毛頭ない。

 だが、いくら隊員数が多いとはいえ、こと自衛隊員に関する不祥事は、どこか目につくのもまた事実だ。防衛省の資料によると、自衛隊員の懲戒処分者数は2017年度に1166人と過去10年間で最多を記録し、18年度には891人と減少したものの、19年度には983人、20年度には1138人と再び増加へ転じている。

 自衛隊と同じく制服職種である公務員の警察官はどうか。2020年度時点で警察官は警察庁、全国都道府県警察、皇宮警察、一般職員らの総数は29万6412人(警察庁資料より)。警察官の数は自衛隊員よりも約4万人多い。

 その警察官の懲戒処分数を見てみると、229人(2021年警察庁発表)だ。ここ10年、懲戒処分者が概ね1000人前後で推移する自衛隊員と、多いときでも600人に満たず、最近は下落の一途を辿る警察官。その差は誰の目から見ても明らかだ。自衛隊員の不祥事は、ほかの公務員と比しても多いことは間違いない。

自衛官の不祥事が多いのは「隠蔽していないから」

警察は、それだけ不祥事を隠しているのではないですか?」

 自衛隊のなかでも“旧海軍の正当伝統継承者”を自認する海上自衛隊に属する50代ベテラン隊員(曹長)に、警察より自衛隊のほうが不祥事が多いという結果を伝えると、苦々しくこう語った。そして「うち(海上自衛隊を含め陸空自衛隊)は、もう隠蔽やもみ消しはしていませんから」と述べ、胸を張る。

「もう隠蔽やもみ消しはしていない」という、曹長の言葉に引っ掛かりを感じた。つまり、過去にはあったということか。

「本音と建前ですね。ただ、その時代に合わせて自衛隊、特に海上自衛隊では組織として何が正しいか、隊員はきちんと見て動いている」

 バブル期真っ只中の1980年代後半、自衛隊の高校的存在で技術部門のエキスパートを養成する旧海上自衛隊第一術科学校生徒部(かつては同少年術科学校、2011年廃校)に入学した曹長は、ここで「最強の自衛官」「望ましい自衛官」となるべく英才教育を受けたという。

「真面目でトロ臭かった中学生が、いきなり大人の世界入りでしょ。それは驚きましたよ」

 入学初日から上級生による下級生への暴行もあった、入学式後は私的制裁として1時間にわたり「前支え」と呼ばれる腕立て伏せもやらされた。往復ビンタ、廻し蹴りなどは日常茶飯事。およそ海上自衛隊の技術部門エキスパート養成機関とは思えない実態がそこにはあった。

「たとえば電技の教務(註:電信技術、モールス通信術の授業という意味)の時、カッター競技(註:ボート競争)の日程が近かったことがあったのですが、競技に負けるわけにはいかないと、私らの班長(教官)はやっきになっていました」

 曹長の受け持ちだった班長(教官)は、この電技科目の担当でもあった。結局、電技の授業は行われず、その時間はカッター競技の練習に費やされた。

「それで日誌に、『カッター』と書いて翌日提出したら、班長から怒られましてね。『この時間は電技だっただろうが』と。ここで悟りましたよ。組織とはこうして動くのだとね」

 曹長が海自第一術科学校生徒部を卒業後、3等海曹として部隊に赴任後、この学校時代に培った“隠蔽術”は、上司からとても重宝がられたという。

「自衛隊は巨大組織です。いろいろあります。円滑に組織を廻していくこと、結果としてこれが国防につながっていくのです」

 機械いじりが好きで海自に入隊。一時は、こうした巨大組織ならではの悪弊に悩み、「これでは技術部門のエキスパートならぬ、隠蔽のプロ、自衛隊の便利屋にされてしまう」と考え、退職して別の進路を考えたこともあったという曹長だが、いま振り返って、自らの自衛官人生に悔いはないと胸を張る。

「生徒出身(旧海自第一術科学校生徒部)として、部隊勤務後は、それこそパンフレット通りに『技術部門のエキスパート』としての進路を歩ませてもらいましたから」

自衛隊、超絶ブラックな就業実態…サービス残業は当然、優秀な人ほどすぐ辞めるの画像2
サービス残業を強要する組織風土 (「Getty Images」より)

民間企業よりもひどい「サービス残業、サービス出社は当たり前」という組織風土

 自衛隊員生活も30年近くを迎え、第一線部隊で海曹(下士官)のまとめ役である先任伍長職を任されているベテランだ。しかも、中学校卒業後15歳で自衛隊入隊した純粋培養組ともなれば、その職業的使命感もあってか、自らの属する組織を美化するのはごく自然なことだろう。なかなかその本音を明かそうとしない。

 対して、若手は違う。工業高等専門学校の電子科を卒業後、空自に入隊。優秀な成績を修め、プログラム関連の任務に就く20代半ばの3曹は、記者の取材に開口一番「自衛隊は腐っている」と述べ、こう続けた。

「不祥事があれば、すぐ隠蔽という体質。これはもう伝統芸かと思うくらい徹底しています。責任は下へ、手柄は上へ。やってられないですよ」

 この3曹がかつて属していたプログラムを扱う職場では、防衛大学校を卒業して間もない若手幹部自衛官が、自らの上司や上級部隊へのウケを狙い、数多くの業務を率先して担っていたという。それは本来、彼の所属する部隊で必ずしも行う必要のないものも含まれていた。

「とはいえ、実際にその業務を行うのは幹部ではありません。曹(下士官)や士(兵)です。曹士自衛官が国防を左右するプログラムを休みなくつくり、幹部は上へゴマすり、出世のための勉強に勤しむ。どこかおかしくないですか」

 令和の時代の自衛隊だ。部下隊員に無茶な勤務をさせることは現に戒められている、という“建前”のようだ。3曹は言う。

「幹部が請け負った重要なプログラム作成、これをベテランの曹に振ります。しかし、ベテランの曹のできる仕事量には限界があるため、若手の曹や優秀な士に振ることになります。結局、曹・士が休日返上で働かないと仕事が終わらないのです」

 自衛隊員も公務員だ。きちんと休日を取れる建前だが、内部からの本音を聞く限り、必ずしもそうではないらしい。

「休日は休日としてありますよ。でも、その休日は、『自らの意思で、たぎるような情熱で、国民の皆様のために働かせていただく』よう、上司から無言の圧力がかけられます」

 民間企業でいうところのサービス残業、サービス出社は、自衛隊も例外ではないようだ。確かに、これもある種の隠蔽といえる。

若手隊員「階級が下の者ほど国防の重要事を担う自衛隊の現実」

「問題は、私たち自衛官が休日出勤することではないのです」

 筆者の思惑を見透かすように、前出3曹は射るような眼で正面を見据えて言う。

「あまりにも幹部が仕事を理解していないことです。たとえばプログラムであれば、これを知らない者が幹部になっている。曹クラスでもそうです。士でも娑婆(駐:入隊前の意)での学校時代、プログラムを学んだ者だけに仕事が集中する仕組み。そこなんです」

 事実、この手の話は多くの自衛官からよく耳にする。曰く、自衛隊では階級が下の者ほど国防を左右する重要事を行い、上の者は何もしないといった様子だ。確かに、どこかいびつな組織といった感はある。なぜ、こういった問題が起きるのか。

「巨大組織である自衛隊は、徹底した役割分担が求められます。それが志を持って入隊した人、特に若い人には、どうしても戸惑うところもあるでしょう」

 こう語るのは、本サイト執筆陣のひとりで、自衛隊について数多く取材を行ってきた経済ジャーナリストの秋山謙一郎氏だ。

 秋山氏によると、自衛隊を民間企業に準えたなら、防衛大学校や一般大学卒の幹部候補生入隊のキャリア組(旧軍でいう将校、士官)は「総合職」、幹部自衛官を補佐する曹士(同じく下士官、兵)は「正社員の専門職(曹)」「契約社員、アルバイト(士)」に相当するという。

「民間の外食産業、たとえばファミリーレストラン店舗でも、大卒総合職が実店舗経験の長いアルバイト従業員から実務を教わることがあるでしょう。それと同じ構図です」

 こう語る秋山氏に、それでも国防を担う自衛隊で幹部が仕事を知らず、曹士が実質的な業務を担っている現状は好ましくはないのはないかと問うと、次のように応えた。

「極端なことを言えば、幹部の仕事は責任を取ること。ここに尽きます。対して曹士は、与えられた職種をプロとして完璧にこなすことが求められます」

 そうすると、今回の取材でも明らかになったように、責任を下へ押し付けようとする幹部が数多くいる現状の自衛隊は、もはや国防組織として機能していないといったところか。

 今も昔も自衛隊では、優秀な者ほどすぐに辞めるといわれている。陸海空自衛官たちによると「自衛官の離職率」は極めて高く、高校卒業後、最下級の階級で入隊した場合、入隊後すぐの研修中に1割から2割程度が退職。研修終了後10年以内に5割程度が辞めるという。定年退職時まで残るのは、同期入隊者のうち4割程度というのが、多くの自衛官たちの体感だ。

 国を守る自衛隊。その自衛隊という職場は、居心地が悪く離職率が高い。はたして、これで我が国の国防は安泰といえるのだろうか。国防とは政治的主義主張、イデオロギー、思想を問わず必要なものである。国内の政情が安定している今こそ、この問題に逃げずに向き合うべきだ。

(文=川村洋/フリーライター)

川村洋/フリーランスライター

川村洋/フリーランスライター

1976年兵庫県生まれ。大学卒業後、業界紙、広告代理店、地方新聞社など、メディア業界を転々とした後、フリーに。2014年に起きた神戸市長田区の小1女児殺害事件を地元ライターとして精力的に取材。以降、橋下徹氏体制下の大阪府・市、野々村元兵庫県議事件、2015年の淡路島で発生した5人殺害事件など主に事件モノを手掛ける。現在も、主に司法、社会問題を取材している。

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