中国共産党の毛沢東元主席らと国共内戦を戦い、1949年に台湾に逃れ、中国国民党主席や台湾総統を務めた蒋介石氏(1887~1975年)の曾孫で、蒋経国元総統(1910~88年)の孫の蒋万安委員(国会議員に相当=43)が近く、台北市長選への出馬を表明することが明らかになった。現職の柯文哲市長(62)は現在2期目で、規定により3期目は立候補できないため、今年11月の市長選は新人同士の選挙戦となるが、中国国民党の「期待の星」といわれる蒋氏の動向が注目されていた。
蒋氏は知名度が抜群で、血統的にも問題はないが、その一方で蒋介石氏ら中国国民党は当時、台湾を故郷とする本省人を弾圧した過去もあり、現在与党の座を占める民主進歩党(民進党)支持者は蒋万安氏には批判的であることなどから、逆に蒋介石一族の血統を継いでいることが選挙戦に不利になることも考えられる。
蒋万安氏は1978年生まれの43歳。米ペンシルベニア大学ロースクールで博士号を取得後、弁護士として活躍していたが、2016年に立法院選挙に当選し、同年に野党に転落した国民党の「ライジングスター」として政界入り。これまでの2期は地元の政治監視団体から最も優秀で気配りのある議員の一人として評価されている。
国民党は2014年の市長選で、新党である台湾民衆党を結成した柯文哲氏に敗北したことで、それ以前に8期連続で市長を輩出してきた国民党は市政においても野党となっており、国民党支持者の間では蒋万安氏の市長選出馬への待望論がくすぶっていた。
当の蒋万安氏は、「中国国民党が推薦方式を採用するのを待ってから出馬を表明し、同時に選挙チームと報道官などの選挙組織体制も発表する」と述べている。
蒋氏以外の次期市長選への有力候補としては、目下のところ台北市の現職副市長である黄珊珊氏の出馬が取りざたされており、実績の面からも、蒋氏の強力な対抗馬となるとみられる。また、民進党も候補を擁立するとみられるだけに、蒋氏にとって決して楽な戦いにはなりそうもない。
蒋介石の負の歴史
とりわけ、台湾内では蒋介石総統が率いる国民党政権がもともとの台湾住民である本省人を迫害した歴史はいまだに忘れられておらず、深い傷跡を残している。台湾では昨年9月、蒋介石氏を顕彰する施設「中正紀念堂」について、台湾行政院(内閣に相当)直属機関が台北市中央に位置する施設内の巨大な蒋介石の銅像を撤去し、敷地全体を「権威主義への反省」を軸とした歴史公園に生まれ変わらせる案を発表したところ、賛否両論が噴出。いまも結論が出ていないなど、「蒋介石氏の歴史的評価」については政治問題化しつつある。
これについては、蒋万安氏も「蒋介石の功罪、特に蒋介石の歴史的位置付けから逃げることなく、明確な態度を示す」と語るなど、歴史的問題については目をそらさずに、客観的に正邪を評価するなど、真摯に立ち向かっていくとの立場を明らかにしている。
(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)