16日午後11時36分、福島県沖を震源とする最大震度6強の地震(気象庁による17日午前4時30分の震源要素更新を踏まえたデータではM7.4、深さ57キロ)が発生した。17日正午の段階で死者4人、負傷者多数を出したほか、営業運転中の東北新幹線の脱線や、宮城、福島両県での家屋の倒壊など大きな被害が出ている。
気象庁は17日未明の会見で、海側のプレート(岩板)内部が破壊される「スラブ内地震」の可能性が高いとしている。一方、Twitter上などでは今回の地震を「人工地震だ」と指摘する声が上がり、それに対して「陰謀論だ」「デマだ」とする批判が殺到。同日正午には日本国内のトレンドに「人工地震」が入った。2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、福島県沖などで発生する大きな地震時にたびたび「人工地震だ」という声が上がってきた。さまざまな科学的観点から検証できるが、あらためて海底掘削の技術的な観点から「人工地震」説を検証する。
スラブ内地震とは
日本で発生する地震は「海溝型地震」「内陸直下地震」「沈み込むプレート(海洋プレート)の中が割れて起きる地震」(スラブ内地震)の3種に分類できる。陸のプレートの先端が「海側のプレートの沈み込み」に引きずり込まれ、ひずみが蓄積し、陸のプレートが跳ね上がるのが海溝型地震だ。内陸直下型地震は活動層の活動によるものが多数を占める。
一方、スラブ内地震は、陸のプレートに沈み込んでいる海側のプレートの中が割れて起きる地震を指す。この地震の中で、海溝軸より海よりの海側のプレートが“海底の地形的に隆起した領域”で生じる地震を特に「アウターライズ地震」という。
太平洋の海底で核兵器使った「人工地震」は可能か?
「人工地震」を指摘するネット上の投稿では、存在が確認されていない兵器や超自然現象的な発生要因などが指摘されている。その中でよく言及されるのが、北朝鮮などによる地下核実験で微弱な「人工地震」が観測されたことを挙げ、「太平洋の海底で核兵器などを利用して発生させた」などという指摘だ。
一方で今回の地震の震源は深さ57キロだ。M7.2というエネルギーを核兵器で生み出すことの非現実性もさることながら、その深度になんらかの人工物を設置することはそもそも可能なのだろうか。
2022年3月17日現在、国立研究開発法人海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」による海底掘削の世界最深記録は、紀伊半島沖の南海トラフで実施した海底下約3000 メートル。太平洋の平均水深は約4000メートルあり、海底掘削を行うためにはまずその“水深”に対する様々な技術的な課題をクリアする必要がある。
海洋掘削より技術的に容易な陸上掘削の世界最深記録はロシアのコラ半島超深度掘削坑で1万2262メートル(12キロ)。57キロ、つまり5万7000メートルの地球深部は人類未踏の場所なのではないか。
海洋研究開発機構の報道室の担当者は「『ちきゅう』の最深掘削記録は、以下発表にある海底下3262.5メートル(水深1939メートル)です」と語り、以下のURLを示した。
https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20190301/
そのうえで、「世界最高レベルの科学掘削船である『ちきゅう』でも上記の通りであり、2022年現在の海洋掘削の技術力をもってしても57キロの海洋掘削は到底不可能です」と述べた。
日本災害情報学会初代会長だった社会学者・廣井脩氏(1946~2006)は、著書『流言とデマの社会学』(文春新書)で、「流言」を「事実の確証なしに語られる情報」と定義し、故意に虚偽を並べ立てる「嘘」とは違い、「流言の基礎は推測」だとしている。加えて、その推測を「事実確認しよう」という動機を持たない人々が伝えることで、拡散していくとしている。
平時のいわゆる「ネタツイート」やSFなどの創作はその限りではないが、多くの人命がかかっている災害時には、信頼できる情報源をもとにした的確な情報収集と周囲への伝達が必要だろう。SNSユーザーのみならず、メディアにも問われている課題であり、今後も多角的に検証を続けたい。
(文=Business Journal編集部)