太平洋のトンガ沖の海底火山噴火に伴い、気象庁が発令した津波警報、注意報。日本は15日深夜から16日正午までの間、緊張に包まれた。その渦中、神奈川県民のスマホには同日未明から午前7時半にかけて、県配信の津波情報に関する緊急速報メールが殺到していた。
神奈川県は同日、公式ホームページ上で「津波情報に関する緊急速報メール」が最大で計20回、県内の沿岸16市町(横浜市、川崎市、横須賀市、平塚市、鎌倉市、藤沢市、小田原市、茅ヶ崎市、逗子市、三浦市、葉山町、寒川町、大磯町、二宮町、真鶴町、湯河原町)で誤配信されたと発表し、謝罪した。同県の三浦半島と相模湾沿岸には津波注意報が継続的に発令されていたが、津波警報は出ていなかったため、配信は不要だった。一方、黒岩祐治知事が自身のTwitterアカウント上で投稿した“謝罪”に疑問の声があがっている。
他県の津波情報も夜通し配信
県の発表によると、本来の配信ルールは「津波警報発表時は気象庁から緊急速報メールを配信」「津波警報から注意報に切り替わった段階で緊急速報メールを県が配信」というものだった。県くらし安全防災局総務室の担当者は「県民の皆さんにより安全な避難を促すために警報から注意報にリスク予測が一つ下がった段階で、県から緊急速報メールが配信される方式になっていた」と話す。
しかし、実際は「津波注意報が発表された段階で緊急速報メールを県が配信」「本県以外の津波情報が更新される毎に緊急速報メールを県が配信」という設定になっていた。そのため、他県の情報も含めて大量のメールが送信されることになったのだという。
県から災害情報管理システム整備を受託しているNTT東日本神奈川事業部が設定を誤ったことが原因。黒岩知事は県公式サイトで「今回の対応により、県民の皆さんには、多大なご迷惑をおかけしたこと、特に、受験生の皆さんには、大事な時期にあって、大きな不安を与えることとなり、深くお詫びします」と謝罪した。
黒岩知事「業者に責任押し付けない」「私自身も寝不足です」
一方、前出の謝罪とは別に黒岩知事は16日午後2時46分、自身の公式Twitterアカウントに以下のように投稿した。
津波注意報の誤送信。委託業者の設定作業ミスが原因であっても、もちろん県の責任です。業者に責任を押し付ける気はありません。ですから、私が謝罪しています。私自身も寝不足です。
— 黒岩祐治 (@kuroiwayuji) January 16, 2022
「津波注意報の誤送信。委託業者の設定作業ミスが原因であっても、もちろん県の責任です。業者に責任を押し付ける気はありません。ですから、私が謝罪しています。私自身も寝不足です」
「業者に責任を押し付ける気はありません」としながらも「私自身も寝不足です」と述べたことで、言外に業者への苦言をにじませたようだ。
この投稿には
「ひと言多い 謝罪だけで十分」(原文ママ、以下同)
「知事をはじめ、県職員、委託業者の中で尋常ではない回数のエリアメールに疑問を感じ、夜間のうちに止めるように行動に移した人がいないのか…。『私も寝不足』←この間に知事であるあなたはどう立ち回っていたのですか?」
などと疑問の声が殺到した。
エリアメールが来なければ寝ていた?
警報に至らずとも、気象庁が津波注意報を出した段階で沿岸自治体の防災担当者や消防職員、消防団などは解除まで警戒態勢に入る。例えば、気象庁が注意報級の危険度情報を発令した場合、「第2次防災体制」(避難準備、高齢者などの避難開始の発令を判断できる体制)を取る自治体は多い。その最高責任者の首長も即応体制を維持するのが一般的だ。黒岩知事の投稿に対し、相模湾沿岸のある自治体の防災担当者は次のように首をかしげる。
「投稿の趣旨がよくわかりません。警報でなくても注意報が発令されている限り、首長や防災担当職員らは、仮眠は取れてもぐっすり眠れるわけなどないのですが……。
ほぼボランティアの地元の消防団ですら夜通し警戒態勢に入っているのに、知事の投稿は『エリアメールが来なければ寝ていた』とも取れます」
東日本大震災被災地でのボランティア活動経験のある県西部沿岸の消防団員は話す。
「エリアメールの誤配信で眠れなかった受験生は本当にかわいそうだと思います。確かにあってはならないことだけど、黒岩知事は大学受験生ではありません。それとはまったく別の話で、災害に対し県のトップに油断があるように見えるのは、どうなんでしょうね。
黒岩知事は県職員、地元自治体に東南海トラフ、相模トラフ地震への備えについて、日ごろから発破をかけています。現場がどんなに頑張っても、なにかあった時に自衛隊の派遣要請を含む重要な決断をするのは知事の仕事です。寝不足なのは、“県庁で災害対応に追われていた”からで“エリアメールの誤配信で無理やり起こされた”からではないといいのですが」
17日、阪神大震災から27年の節目を迎えた。行政機関トップの資質は有事の立ち居振る舞いで色濃く表れる。黒岩知事は、前述のような現場の疑問にどう答えるのだろうか。
(文=編集部)