映画『香川1区』でファン急増?立憲民主党・小川淳也議員、永田町での本当の評判
国会議員秘書歴20年以上の神澤志万です。
先日、やっと話題のドキュメンタリー映画『香川1区』(大島新監督)を鑑賞してきました。この映画は、立憲民主党の小川淳也衆議院議員(香川1区)を初出馬のときから追っている大島監督の『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020年公開)の続編です。この『なぜ君』は永田町でも注目され、神澤も泣いてしまったことを書かせていただきました。
でも、今回のテーマは「総理大臣」とは無関係で、永田町ではまったく話題になりませんでした。実は神澤も全然知らず、国会関係者ではない友人から感想を求められて初めて知った次第です。
なんと、今年の1月から全国公開されていたんですね。話題に乗り遅れた感もありますが、感じたことを書いてみたいと思います。
東大卒のエリート官僚から政治家へ
小川議員は、東京大学から自治省(当時)勤務を経て、2003年に香川1区から民主党公認で初めて出馬しています。このときは落選しましたが、その後は順調に当選を繰り返し、現在は6期目です。前にも書いていますが、普通にいい方です。
大島監督の奥様が高松のご出身で、小川議員と同級生だったのがご縁で、大島監督は初出馬から取材を続けてきました。
「社会をよくしたい」という思いだけで、エリート官僚から三バン(地盤・看板・カバン)、つまり後援組織、知名度、資金力が一切ない中での政治家への転身で、小川氏の奥様はとても心配されたそうです。
16年頃、大島監督は「もしかしたら小川さんは政治家に向いてないのでは?」と思ったことで、「一般的にはほとんど知られていない」小川議員の映画として『なぜ君』という作品にまとめたそうです。17年間の取材の総集編というわけです。
その前作から1年半で続編が公開されるとは驚きですが、それだけ香川1区という選挙区はネタが豊富ということでしょうか。
維新の候補に出馬取り下げ要請で炎上
『なぜ君』は、観客動員1万人で大ヒットといわれるドキュメンタリー映画では異例の3万5000人以上を達成し、小川議員の名も一躍有名になりました。
そこで、続編『香川1区』の公開です。香川1区という選挙区での小川議員と自民党の平井卓也議員の関係性や、野党と自民党の対比をテーマに取材した作品です。
平井議員は、20年6月の『なぜ君』公開から3カ月後に誕生した菅義偉内閣で初代デジタル改革担当大臣(当時)に就任しています。今回の映画では、平井議員の政治資金パーティーに関する内部告発も取り上げられました。
小川議員といえば、やはり神澤的には21年10月の衆議院解散直前の「立候補取り下げ要求事件」の印象が強いです。普通に考えれば「小川議員らしくない」行動でした。テレビのワイドショーでも大きく取り上げられ、「なぜ君は維新に取り下げ要請するのか」と、ネットでも炎上しました。
これは、21年10月11日、日本維新の会の代議士会(本会議前の各会派が行うミーティング)の終了間際に小川議員がアポなしで控室を訪問し、馬場伸幸幹事長(当時)に町川順子候補の出馬取り下げを訴えた件です。
その場に居合わせた秘書仲間によると、小川議員は硬直した表情で突然控室に入ってきて、職員が「会議中だから」と止めようとしたにも関わらず、ひるむことなく馬場幹事長に直訴したそうです。
そして、「勘弁してくださいよ。野党でまとまらないといけないんです。町川さんをおろしてください。野党統一候補として、まとまっていきましょうよ。お願いしますよ……」と、文字通り泣きついたそうです。
馬場幹事長としてはいい迷惑で、「そもそも我々は野党統一候補の話にも乗っていないし、選対として町川さんの擁立を決めたんだから、今さら言われても……」と困惑していたそうです。
さらに、居合わせた他の議員たちからも、「小川さん、直接来るなんておかしいよ。帰りなよ」と言われながらも「いや、今こそ野党でまとまらないといけないんですよ。町川さんに出られると困るんですよ」と引き下がらなかったそうです。
以前から小川議員を知っている神澤としては、この行動には疑問しかないです。
小川議員は、まず自分の所属政党である立民の枝野幸男代表(当時)に話して、立民と維新の政党間での交渉にしてもらうべきでした。というか、そもそも町川候補擁立の動きを察知した時点で動かないと遅いでしょう。控室に乗り込んだときには、もう公認発表の記者会見も終わっていました。
それに、もし町川候補が出馬を取りやめていたら、「小川淳也の圧力で維新が出馬を取りやめさせられた」とバッシングを受けていたはずです。結果としては、町川さんが取り下げなかったことは小川議員にとってプラスに働いたと思います。
「あんたも選挙に出てみなよ」
映画では、この「出馬取り下げ要請」をめぐって、小川議員が政治評論家の田崎史郎氏に「間違っていなかった」と言い張る場面があります。両氏は普段は良好な関係なのですが、神澤はだいぶ前にある議員から言われた言葉を思い出してしまいました。
「神澤さん、あんたも選挙に出てみなよ。選挙に出たこともないのに、わかったようなことを言うな」
確かに、当事者にしかわからないことはありますね。「候補者の心理」は、出馬経験がある人にしかわからないでしょう。特に選挙直前の心理は、言葉では表現できないくらい複雑だそうです。心が追い詰められてしまい、日頃なら気づけることにも気づけず、普段の性格からは考えられない行動をしてしまうこともあるんですね。だから、秘書も選挙に挑戦して初めて1人前になると言われるのか……としみじみと思いました。
小川議員は、映画の中で「常軌と狂気」という言葉を使っていました。その2つが共存している人でないと、選挙に出るという行動はしないということです。その通りだなと、妙に納得しました。神澤には「狂気」が足りないんですかね(笑)。
昨年の解散直前の頃は、『なぜ君』の影響もあって、明らかに小川議員に風が吹いていました。維新から候補者が出たところで、あまり影響しなかったと思います。それを世間の人たちは理解していたからこそ、出馬断念を迫った小川議員の行動が「狂気」に感じられて、共感できずに「炎上」してしまったのではないでしょうか。小川議員の常軌と狂気のバランスが崩れてしまったのかもしれませんね。
普段は情報分析に長けている小川議員がいつものように冷静に判断できていたら、維新の控室にアポなし訪問したり、町川候補の実家にまで行って出馬断念をお願いしたりするようなことはなかったと断言できます。よほど追い詰められた精神状態だったようです。
その様子を映画はうまくまとめていますし、ご家族や支援者たちが小川議員を支える姿にも感動しました。自分を取り戻した小川議員の躍進ぶりは、現在の通りです。
映画を観たら小川議員のファンになる?
映画の中で、平井議員は『なぜ君』のことを小川議員の「PR映画」だと批判していましたが、この『香川1区』も、ある意味でそうだなと思いました。あくまで「小川淳也議員」の人となりや活動の様子を収めたドキュメンタリーなのですが、平井陣営の方たちの態度の悪さや脅迫しているような口調、会合に集う人たちの雰囲気は対照的で、「令和の悪代官と徳川吉宗」的な「ザ・自民党国会議員とさわやかな改革派議員」なので、どうしても小川議員を応援したくなってしまうんです。
「こんなにも初心を忘れない人がいるんだ」と思ったり、自分の選挙経験と重ね合わせて「今回の選挙も大変だったなあ」と涙したり、そして最後には「これからも小川議員を応援したい。こういう人が日本の国会には必要なんだ」と、心から思いました。
あくまでドキュメンタリーなのですが、結果的には「小川議員のPR映画」になっているといえます。大島監督は、映画の中で平井議員に「PR映画とはひどい」と抗議していましたが、これは悪い意味ではないと思いますよ。
それだけ、「ありのままの小川議員」には、多くの人が引き込まれてしまう魅力があるということだと思います。映画を観ただけなのに、誰もが小川議員のファンになって家路につくと思います。国会女子のドン(笑)であるこの神澤も、小川議員のファンになってしまい、たくさんの人に映画の話をしたくて仕方ないくらいですから。
さらなる続編にも期待しています。そのときには、もう少し「小川淳也という国会議員」の実績も知りたいです。
(文=神澤志万/国会議員秘書)
『国会女子の忖度日記:議員秘書は、今日もイバラの道をゆく』 あの自民党女性議員の「このハゲーーッ!!」どころじゃない。ブラック企業も驚く労働環境にいる国会議員秘書の叫びを聞いて下さい。議員の傲慢、セクハラ、後援者の仰天陳情、議員のスキャンダル潰し、命懸けの選挙の裏、お局秘書のイジメ……知られざる仕事内容から苦境の数々まで20年以上永田町で働く現役女性政策秘書が書きました。人間関係の厳戒地帯で生き抜いてきた処世術は一般にも使えるはず。全編4コマまんが付き、辛さがよくわかります。