IPCCは1988年に設立された気候変動に関する政府間組織(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)で、195の国と地域が参加し、その目的は各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることである。そのIPCCは、第55回総会において地球温暖化の原因を人間の影響だとする第6次評価報告書を発表し、世界的に大きな反響を呼んだ。
報告書では「複雑で複合的かつ連鎖的なリスク」として、次のように食品安全に関するリスクが明記された。
「気候変動による食品安全に対するリスクは、マイコトキシンによる作物の食品汚染、及び有害な藻類ブルーム、マイコトキシン、化学汚染物質による海産物の汚染を増加させることにより、健康へのリスクを更に悪化させる(確信度が高い)」
マイコトキシン(Mycotoxin/カビ毒、真菌毒)はカビの代謝生産物で、人間あるいは動物になんらかの疾病や異常な生理作用を誘発する物質群をいうが、そのなかで最も問題があるのは、自然界で最強の発がん物質とされるアフラトキシンである。
また、有害な藻類ブルームとは有毒な藻類(アオコ)をさすが、世界各地の沿岸海域や淡水域での大量発生が従来を上回るペースで頻発していると報告書は指摘。水道水が有毒物質に汚染される原因となるばかりか、野生生物に対する重大な被害が予想されている。
飼料用トウモロコシは輸入時にアフラトキシン検査されず
日本では、米国からの輸入食品でアフラトキシンによる汚染が深刻化している。2020年、米国で地球温暖化による異常気象で広範囲にアフラトキシン汚染が広がったためである。アフラトキシンは熱帯地域のカビ毒で、今のところ日本では発生していない。毎年、熱帯地域からの食品がアフラトキシン汚染で輸入停止となっているが、最近では05年の超大型ハリケーン・カトリーナによって米国南部やミシシッピ州周辺が甚大な洪水被害に遭い、トウモロコシや小麦などが水浸しになり、農作物のアフラトキシン汚染が広範囲に広がったことが有名である。
20年の米国からの輸入農産物のアフラトキシン汚染は、トウモロコシ12件、生鮮アーモンド13件、乾燥イチジク6件、落花生19件、生鮮ピスタチオナッツ4件、ピーナッツ3件となっている。さらに、アフラトキシンではないがカビ汚染された米国からの輸入農産物は、小麦22件、大麦2件、大豆1件、うるち米3件。米国からの違反輸入食品の大半がアフラトキシン汚染かカビ汚染で、汚染度も最高199ppbと極めて高い。
事態の深刻さは、これにとどまらない。日本には飼料として1163万トンもの飼料用トウモロコシが輸入されている。主食用のトウモロコシは輸入時に10ppbを超えるアフラトキシン汚染が確認された場合は、廃棄ないし積み戻しとなり日本に輸入されないことになっている。
しかし、飼料用トウモロコシは輸入時にアフラトキシン検査はなされていない。16年から19年にかけて、アフラトキシンの高濃度汚染によって輸入がストップされていた食用向けトウモロコシ3万5000トンが、輸入事業者の申請により飼料用に転用され、輸入が認められるという事態も発生していた。
乳牛の体内にアフラトキシンが取り込まれると、乳牛の肝臓でそれが代謝され、アフラトキシンM1に変化して、血流に乗って乳に含有されることになり、牛乳を汚染する。このアフラトキシンM1はアフラトキシンB1の10分の1の毒性を持っており、世界的に規制対象となっている。国際がん研究機関も「アフラトキシンM1はヒトに対しても発がん性を有する可能性がある」と評価している。
IPCCの報告書が指摘しているように地球温暖化による農作物被害が深刻化することが想定されているが、アフラトキシン汚染による健康被害の広がりも懸念される。
(文=小倉正行/フリーライター)