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国産農産物の「残留農薬」問題、封印された実態…おざなりな検査体制、件数削減も

文=小倉正行/フリーライター
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「gettyimages」より

 輸入食品の残留農薬問題が週刊誌などで注目されているが、国産農産物の残留農薬も無視できないとの指摘もある。国内では農業者の高齢化と後継者不足のなかで農作業の省力化が不可避になっており、雑草駆除や害虫駆除のための農薬使用の依存度が高くなっているとの指摘もある。ドローンやヘリによる農薬の空中散布など広域散布も頻繁になされている。

 しかし、国産農産物の残留農薬の実態について私たちが目にすることはほとんどない。果たして的確な検査がなされているのかとの疑念も湧く。そこで調べてみると、次のような検査体制の問題点が明らかになった。

 残留農薬検査は、食品衛生法に基づいて主に地方自治体によってなされている。というのも厚生労働省は、食品衛生法に基づいて食品衛生に関する監視指導の実施に関する指針を策定しているが、そこでは「国内に流通する食品等の監視指導は基本的に都道府県等が実施する」とされている。「都道府県等」とは、都道府県と中核市及び保健所が所在している市町村が対象となる。

 都道府県および対象市町村は年1回、監視指導計画を立て、その計画に基づいて残留農薬検査を実施することになる。その検査を担うのが保健所である。農薬については、その品目や生産履歴を参考に検査する農薬を抽出のうえ計画的に検査を行っているとしている。

 しかし、監視指導計画は、残留農薬だけではなく、食中毒や食品表示、HACCP、食肉の衛生管理、鶏卵の衛生管理。乳製品の衛生管理、水産加工品の衛生管理など多岐にわたっている。残留農薬検査は、保健所の監視指導計画のほんの一部である。

 さらに、保健所の人的配置の問題もある。保健所で食品衛生分野を担当しているのは、保健所に配置されている食品衛生監視員である。十分に人員配置されていれば問題はないが、全国の約3分の1の保健所には、専任の食品衛生監視員が配置されておらず、兼任として配置されている。保健所の医師や獣医や他の職員が、兼任として食品衛生監視員の仕事をしているのである。

 要するに全国の3分の1の保健所では、食品衛生監視指導は片手間仕事で、念入りな検査は困難である。それどころか、現在のコロナ禍で、保健所での業務は過酷となっており、他の分野からの応援でなんとか業務をこなしている状態で、兼任の食品衛生監視員は当然、コロナ対応に追われており、食品衛生監視の業務はおざなりになる。現にコロナ禍で、ある保健所では残留農薬検査件数を大幅に削減していることを明らかにしている。このように保健所の人的問題で、国民が期待するような残留農薬検査はなされていないといえる。

検査結果の発表方法

 さらに、残留農薬の実態を知ることができない背景には、その検査結果の発表方法をめぐる問題がある。検査結果は、その監視指導検査主体である各地方自治体のホームページに掲載されるが、さまざまな情報が提供されているなかで食品衛生分野の情報は一部にすぎない。それも、違反件数ゼロなどと違反があったかどうかだけを掲載するのがほとんどである。

 また、日本の農薬残留基準は、海外の農薬使用実態に合わせた極めて緩い基準である。それだけに、基準値内の農薬残留であっても、その数値を公表すべきである。

 国民は、各都道府県のホームページにアクセスしないと全国の残留農薬の実態を掌握できないが、厚生労働省によれば、2年遅れで検査結果を集約したものを公表しているとのこと。調べてみると厚生労働省のホームページ内に公表していたが、その公表資料にたどり着くのは至難の業である。本来であれば、ホームページのトップから簡単にアクセスできるようにすべきである。また、リアルタイムで実態がわかるようにすべきである。

 このような改善をして、国民が農薬残留実態を共有できるようになって初めて国産農産物に対する信頼を回復できることになり、それは日本農業の進展にも寄与することになるであろう。

小倉正行/フリーライター

小倉正行/フリーライター

1976 年、京都大学法学部卒、日本農業市場学会、日本科学者会議、各会員。国会議員秘書を経て現在フリーライター。食べ物通信編集顧問。農政ジャーナリストの会会員。
主な著書に、「よくわかる食品衛生法・WTO 協定・コーデックス食品規格一問一答」「輸入大国日本 変貌する食品検疫」「イラスト版これでわかる輸入食品の話」「これでわかる TPP 問題一問一答」(以上、合同出版)、「多角分析 食料輸入大国ニッポンの落とし穴」「放射能汚染から TPP までー食の安全はこう守る」(以上、新日本出版)、「輸入食品の真実 別冊宝島」「TPP は国を滅ぼす」(以上、宝島社)他、論文多数

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