本連載では、食品添加物による健康被害のリスクは、無視できるほど小さいことを解説してきました。
一般的に、リスクは「発生確率」と「影響の大きさ」の掛け算(乗法)で評価されます。これまで発生確率に関して、普段なんとなく感じているイメージではなく、具体的な数字で考えることの重要性を指摘してきました。また、その数字についても、違う原因による発生確率と比較検討して、相対的に評価することの有用性についても紹介してきました。厳密には、発生確率は危険事象が起こる確率のほかに、危険源への暴露の頻度や時間、回避または制限できる可能性なども考慮しますが、シンプルに危険事象が起こる確率のみを取り上げています。
そして、これまでの本連載で述べてきた通り、食品添加物による健康被害の発生確率はほぼゼロであるため、仮に影響の大きさが大きかったとしても、リスク評価は発生確率と影響の大きさの掛け算で算出されますから、全体のリスクは小さくなります。
しかし、いくらリスクが小さくても、感情的に不安を感じている人や、頭ではわかっているけれども納得できない人はいるかと思います。
問題は、リスク評価における影響の大きさにありそうです。
影響の大きさは、腹痛や下痢などの一時的なものから、がんなどの病気といった生涯にわたるものまでいろいろと考えられます。場合によっては死亡など命にかかわるようなことまで想定されます。
ですが、これらの影響の大きさは、具体的な数値として客観的に示すことができません。たとえば、「食品添加物の摂取前後で身体的に受けた影響は0.1」「がんは腹痛より100倍影響が大きい」などと説明することはできません。
そのため、どうしても個人個人の価値観や好みなどの主観的評価が影響してきます。これは、裏を返せば同じ危険事象であっても人によって影響の大きさの感じ方(認知)に個人差が出てくることを意味します。
また、危険事象が起こる背景や状況、具体的内容によっても、影響の大きさを過大評価あるいは過小評価してしまう可能性もあります。
リスクが過大視されるケース
そこで、人がリスクを過大視してしまいやすいケース、つまり「認知バイアス(偏り)」が起こりやすい条件や背景について、リスクコミュニケーション分野における教科書である『Risk Communication and Public Health』(Oxford University Press/第2版2010年)にまとめられていましたので紹介したいと思います。