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数学Ⅲ、実は医学部で不要?東海大が入試科目から削除、他大学に波及か

取材・文=文月/A4studio
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東海大学のHPより

 4月下旬、東海大学医学部医学科が2023年2月実施予定の入試(一般選抜)で数学Ⅲを削除することが明らかとなり、話題を呼んだ。ネット上では、「倍率がものすごく上がりそう」「他の試験問題のハードルが高くなりそう」「文系学生でも受験可能ではないのか」とさまざまな反応が上がっている。

 そこで今回は美容外科「アマソラクリニック」の院長であり、医学部受験塾「MEDUCATE」代表の細井龍氏に見解を聞いた。

医師には必要のない科目?

 まず、数学Ⅲとはどのような科目なのか。

「2024年度入試まで適用される旧教育課程について説明します。旧課程において数学Ⅲは、『平面上の曲線と複素数平面』『極限』『微分法』『積分法』から成り立つ科目です。文部科学省の学習指導要領によると、『平面上の曲線と複素数平面,極限,微分法及び積分法についての理解を深め,知識の習得と技能の習熟を図り,事象を数学的に考察し表現する能力を伸ばすとともに,それらを積極的に活用する態度を育てる』ことを目標としています。簡単に申し上げるとすれば、大学数学への橋渡しの科目という表現が適切でしょう」(細井氏)

 なお22年4月からは新教育課程が導入されており、数学Ⅲはそのままに新しく数学Cが追加された。「極限」「微分法」「積分法」は数学Ⅲに残ったが、数学Cに「平面上の曲線と複素数平面」が移行。また数学Bからは「ベクトル」が移行し、「数学的な表現の工夫」という単元が新登場している。ちなみに新課程に移行してからの入試は2025年度から開始となるという。

 では、数学Ⅲが難関だといわれる理由は何か。

「基本的に数学は連続性のある科目なので、数学ⅠA、数学ⅡBを習得していないと理解できません。また微積分が関わる分野なので、計算が煩雑になりやすいという特徴があります。ですから計算量が多かったり、計算式の行数が膨大になってしまったりすることが多く、制限時間内で計算ミスなく解ききるという処理能力の高さが求められますね。

 そして、厄介なのが先ほど挙げた4つの分野が、すべて複合された問題として出題されるということ。たとえば、複素数平面や二次曲線で書かれた図の体積を求めるときに微分、積分を使用したり、その求めた体積をどこに収束するのか解くために極限を使用したりと、すべての分野を理解していないと問題が解けないんです」(同)

 数学Ⅲは大学数学への橋渡しとのことだが、実は医学部の勉強ではあまり使う機会がないという。

医学部は便宜上、理系という扱いですが、数学科や物理学科のように数学Ⅲを下敷きとした勉強を行うことが少ないです。思考訓練の一環としては必要かもしれませんが、特段数学Ⅲがなくて困ることはないかと思います。

 これは私のように医師になってからも同じであり、仕事で数学Ⅲの知識が問われるようなことは滅多にありません。ただ大学の研究職になると話は別で、対象となるサンプルの測定や実験を行う際には必要となるでしょう」(同)

数学Ⅲ削除は経営的な理由によるものか

 数学Ⅲを入試科目から外すことによって、今後の東海大学医学部の受験にどんな変化が生じるのだろうか。

「これまで数学Ⅲは勉強時間の確保ができる浪人生に分がありましたが、今回の数学Ⅲ削除により現役生有利の流れになるでしょう。数学Ⅲはどうしても苦手意識を持つ受験者が多く、なかには範囲が終わらないまま入試を迎えてしまう受験生もいます。ですから数学Ⅲが苦手な学生からするとラッキーと感じるでしょうし、受験者数も増えるでしょう。

 また数学Ⅲがなくなることによって、文系の受験者も増えると思います。数学ⅠA、ⅡBと生物、英語のみという組み合わせでも受験できるようになるため、文系でもディスアドバンテージなく医学部へと入学できるようになるかもしれません。

 余談ですが東海大学自体、編入学試験を行っており、4年制の文系大学を卒業した方でも入学できるチャンスがあるんです。文学部卒の医者、という経歴の方も珍しくはありません。今回、東海大学が数学Ⅲを削除したのも、文系の人でも医者に育てることができたという実績があったからこそ決断できたのでしょうね」(同)

 他にも東海大学医学部が数学Ⅲを削除した理由は考えられるだろうか。

「やはり受験者数の減少が原因ではないでしょうか。実際に東海大学医学部の受験者数は、19年度と比べて22年度は約6割にまで減っており、受験者数争いに後れを取っている印象です。なぜ受験者数が減っているかについてですが、同偏差値帯で数学Ⅲがない大学に受験者が流れてしまっているのだと考えられます。

 今回は東海大学が注目を集めていますが、実は東海大学以外にも以前から数学Ⅲを削除している医学部は多いんです。たとえば帝京大学や近畿大学は一般選抜、金沢医科大学では後期の一般選抜から数学Ⅲを削除しています。私立大学は受験者数を増やさないと運営に支障をきたす恐れがあるので、学生を集めるために経営的な判断で数学Ⅲを削除したのでしょう」(同)

 だが、数学Ⅲが東海大学医学部の試験科目から外されても、医学部を目指す受験生で数学Ⅲを勉強しない生徒はあまり増えないだろうと細井氏は指摘する。

「医学部の受験難易度ランキングからすると、東海大学は少し低めの位置ですので、“第一志望で東海大学しか受験しない”という人はあまりいません。一般的に数学Ⅲが受験科目に入っている大学と併願する受験者が多いため、だいたいの医学部志望者は数学Ⅲを勉強しなくてはいけないんです」(同)

 最後に、今回の東海大学の数学Ⅲ削除により、他の大学医学部はどのような対応を取ると考えられるか、解説していただこう。

「帝京大学、近畿大学、東海大学らに続いて、医学部でも数学Ⅲを使わない受験スタイルは徐々に増えるのではないでしょうか。東海大学より上の偏差値帯の大学の医学部は数学Ⅲを削除しない可能性が高いですが、東海大学と同ランク、もしくはそれ以下の偏差値帯である私立大学の医学部は削除するかもしれません。たとえば、埼玉医科大学や川崎医科大学、北里大学、岩手医科大学などの医学部は、東海大学の今後の受験者数によっては、数学Ⅲを削除する可能性が高いでしょう」(同)

 私大医学部受験のスタンダードが変わっていくのかもしれない。

(取材・文=文月/A4studio)

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エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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