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震災遺構として保存か、撤去か?被災地観光に揺れる地元、復興への起爆剤になるか

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 観光客の数は震災の年よりも増えているが、震災前の半数という被災地がほとんだ。気仙沼観光コンベンション協会によると、気仙沼市への観光客は、震災前の2010年は210万人だったが、震災のあった11年は43万人と5分の1に激減した。12年には78万人と回復したものの、震災前と比べると半数以下だ。

 大型漁船は震災観光の目玉でもあり、地元の観光関係者からは保存してほしいとの声も聞かれたが、解体後の被災地観光はどうなるのか?

 「被災した建物は点在していますが、ほとんどは更地になっています。語り部さんたちが当時の自宅を案内することもあります。また、市内至る所に津波到達点の表示があります」(同関係者)

●被災地観光を復興の起爆剤に

 南三陸町では、震災前にメイン通りだった「おさかな通り」も被災した。震災観光としてもまだ「防災対策庁舎」はあるものの、撤去の方針だ。現在では、観光バスで来た人たちをそのまま津波被災エリアに案内することもある。しかし、地面をかさ上げをするために道路工事が始まった。

 町で人気があるのは「語り部」。もともと観光ガイドのサークルだったが、その中の希望者が、震災当時の話をしてくれる。ただし、話題となった高校生の語り部は、同世代や外国人向けのみになっている。地元観光関係者によれば、「建物はほとんどなくなっていますが、語り部によっては自宅跡で話してくれる人もいます。事前予約が必要で、今のところ11月まではいっぱいになっています」という。

 釜石観光物産協会によると、釜石市の観光客は震災前年の10年は約103万5000人だったが、震災の年は26万人と4分の1となった。12年は50万6000人と持ち直してきているが、震災前の半分ほどだ。

 観光のほとんどが「被災地ツアー」で、ボランティアガイドがおり、「鵜住居地区防災センター」や市街地にある避難道路を案内してくれるという。希望によっては、「世界最大水深の防波堤」としてギネスブックにも世界記録として認定されていた湾口防波堤を見るために、釜石観音まで行くこともあるという。

 さらに釜石市は、19年に開かれるラグビーのワールドカップ日本大会の開催地の一つとして誘致活動をしている。日本初の西洋式高炉跡として橋野高炉跡が「世界遺産」として推薦されている。こうした動きを「被災地観光」と関連づけて、復興の起爆剤にしていきたい考えだ。

●宿泊と交通手段が課題

「震災遺構」は、視覚的にもわかりやすく被災の実態を伝えることができる。私も個人的に案内をすることがあるが、「震災遺構」を見れば言葉にならないものを感じることができたと言う人もいる。地元住民の心情を考えれば、仕方がない部分もあるが、象徴的な建物がなくなっていくのは、観光資源としても防災教育としても、もったいない気がする。

 被災地は、教育や研修の場ともなり得る場だ。阪神大震災や新潟中越地震の被災地でもメモリアルパークをつくり、学ぶ防災施設として活用がされている。もちろん、遺構があろうがなかろうが、伝わるのかもしれない。しかし、「明治、昭和と大津波を経験したにもかかわらず、多大なる犠牲があったということは、過去の経験が現世代にきちんと伝わっていなかったのではないか」との声もある。

 震災を学ぶことと被災地の応援ツアーを両立させるには、第一に宿泊施設の問題も大きい。復興工事の関係者やボランティアの宿泊先として利用され、余裕が少なくなった宿泊施設では、一般の観光客が利用できない日も少なくない。そのため、現在では内陸部の宿泊施設を利用せざるを得ない。

 さらには交通手段の復旧も課題だ。三陸鉄道は北リアス線、南リアス線ともに復旧の計画がある。気仙沼を経由して大船渡と一ノ関を結ぶJR大船渡線は、盛駅から気仙沼駅までは、バスを利用して都心の大量公共旅客輸送幹線を実現するシステムであるバス・ラピッド・トランジット(BRT)で再開するなど、交通手段も復旧し始めた。一方、宮古駅と釜石駅を結ぶJR山田線は見通しが立っていない。車を運転できない人の観光は、ツアーに頼らざるを得ないのが現状だ。
(文=渋井哲也/フリーライター)

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BusinessJournal編集部

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