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山田哲人のホームランボール奪取疑惑騒動、個人情報を晒した“特定班”に違法性は?

文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表
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山田哲人
ヤクルト・山田哲人選手(「Wikipedia」より)

 東京ヤクルトスワローズの山田哲人選手が放ったホームランボールを、大人の男性が少年から“奪った”との批判がネット上に殺到し、社会的騒動になった。その騒動は1週間たっても沈静化するどころか、波紋が広がり続けている。

 事の発端は5月2日、東京ドームで行われた読売ジャイアンツ対スワローズ戦で、山田選手の放った打球がレフトスタンド最前列に飛び込んだ際、大人の男性と少年がボールを取り合う格好になった。最終的に男性がボールを手にしたのだが、その様子がテレビ中継などの画面に映っており、「大人が少年からボールを奪った」などとSNSを中心に批判の声が続出。

 その後、瞬く間に該当シーンの動画がネット上で拡散され、さらに“特定班”と呼ばれるネット上の個人情報特定を得意とする人々が、件の男性のSNSアカウントを探し当てた。挙句の果てには、男性の本名、住所、親族などの個人情報を公開するサイトなども散見されるようになった。

 騒動が“炎上”状態となったことを受けて、男性は自身のTwitterアカウントを閉鎖したが、誹謗中傷は収まる気配はなく、ついには5月8日、代理人と称する弁護士が、誹謗中傷する投稿をした人物に対して法的措置を検討しているとの声明を出し、過熱するネット上の攻撃を牽制した。

 だが、この弁護士の声明が、ネット上でさらなる批判を招いている。

 弁護士は動画を添付しつつ、ホームランボールは最初に男性の手に当たり、それがこぼれたところに少年が駆け寄ってきたが、最終的に男性が獲得したものだとし、“奪った”との批判は正しくないと主張。

 だが、そもそも男性が自身の座席より数席横の人物の前に体を乗り出して捕球しようとした行為自体が観戦ルール違反であり、さらに先に手に当てていたとしても、少年と取り合うような恰好になった際に譲らなかったのも大人げない、といった指摘が噴出。

 また、「素直にすみませんでしたって謝って少年にボールをあげればいいのに、弁護士雇って戦いを挑んでいる時点で火に油を注いでいる」など、弁護士が出てきたことに眉をひそめる声もある。

 一方で、正義感に駆られ、トラブルが起こった際にネット上で個人情報などをさらし上げる行為に違法性はないのだろうか。今回、男性がボールを獲得するまでの経緯はともかく、少なくとも違法な行為でもなく、男性が著名人なわけでもない。個人情報をさらす正当な理由があるようにはみえない。

 山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士は次のように語る。

「本名や住所などの個人情報を同意なくネットにあげて拡散させること自体は、取り締まることができるものではありません。これにプラスして、『この人物はこういうことをしている』など、特定の人物の評価を下げるような記載をするならば、名誉毀損が成立する場合があります」

 名誉棄損が成立する可能性がある状況で、仮に情報をさらされた人が情報開示請求をして、拡散させた人物を相手に訴訟を起こした場合、どの程度の処罰を与えられるのだろうか。

「こういった”特定犯”は、よく自分たちがしていることを正当化します。確かに『こういう悪い人間は“裁き”を受けるべきである』といった理屈もわかりますが、結局は、特定することを面白がりながら『ネットで晒して困らせてやれ』程度の低い動機しかないので、ここに『公益目的』などはありません。

 民事上の話ですが、こういった特定の人の個人情報をネットで晒して評価を下げるような書き込みは、名誉毀損による不法行為となる可能性があり、数十万円程度の損害賠償義務が発生することもあります」

 ネット上で騒動が起こるたびに、当事者の個人情報や顔写真などをさらすサイトやブログがあるが、それがいずれ自身の首を絞めることになる可能性があるということだろう。

 対照的に9日、千葉ロッテマリーンズ対埼玉西武ライオンズ戦で、ロッテの池田来翔選手がプロ入り初ホームランを放った際、ホームランボールを獲得した男性が近くにいた子供にプレゼントしたという話が話題になっている。

 その後、ホームランボールは球場側が一旦回収して池田選手に手渡され、池田選手からお礼としてバッティンググローブ(手袋)が少年に届けられた。すると少年は、ボールをくれた男性に片方を分け与えたという。

 このようなほほえましい光景は、近くにいた人々をはじめ、SNSで拡散されて多くの人の心を癒している。

(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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