名門私立小学校合格を目指す「お受験」は、東京を中心に年々加熱している。名門校になんとか子どもを合格させようと、今年も保護者たちが笑い、泣き、叫んだことだろう。保護者が通常の精神状態を失うことも珍しくない小学校受験の現状と、名門校に受かるために必要な対策を、お受験コンシュジュ&戦略プランナーのいとうゆりこ氏に聞いた。
受験までの費用は1000万円にも
私立小学校の入試は今年も10月から11月にかけて行われている。慶應義塾幼稚舎の昨年の志願倍率を見ると、男子は約10倍、女子は約13倍。早稲田実業初等部も男子は約7倍、女子は約10倍だった。名門校の人気は高く、今年の入試も狭き門であることに変わりはない。特に名門大学の附属校の人気が高いのは、小学校からそのまま大学に進学にできると考えられているからだろう。ただ、興味は持っていても、実際にはいつから、どのように対策をすればいいのかわからない家庭も多いのではないだろうか。いとう氏は、「お受験」対策を始める時期は早まっていると説明する。
「有名私立小学校に入れるためには、伸芽会やジャック幼児教育研究所といった大手の幼児教室に早い段階で入会をし、席を確保することが鉄則です。この2つの教室は学校とのパイプもあり、早稲田実業や暁星、学習院、立教、聖心女子学院などの校長先生が登壇する説明会を開催してます。志望校の情報を得ることと、他の子どもたちとの実力を見比べるためにも、教室に通うことは必要です。妊娠中や1歳前から動き始めるご家庭も多いですね。名門小学校を卒業しているお母さま方は、妊娠した時点で教室に挨拶にいき、生後3カ月から半年くらいには子どもを教室に入れています。お受験を経験していないお母さまも噂を聞きつけて、子どもを早めに教室に入れるので、1歳を過ぎてからだと入会が順番待ちになるのが現状です」
驚くのはその費用だ。1歳前から幼児教室に入れて、小学校受験までに1000万円ほどかかることは珍しくない。
「名門校に合格するためには、大手の教室で習ったことを、中小の教室や個人塾でさらに細かく丁寧に仕上げてもらう必要があります。中小の教室はスイング幼児教室、こぐま会、理英会などですね。体力重視の入試なら体操教室は必須ですし、絵画に比重を置いている学校であれば絵画教室にも通う必要があります。さらに、有名幼稚園の受験から始める家庭もあり、その場合は小学校受験までにかかる費用は衣類や出願にかかる諸費用も含め総額1000万円くらいです。安く済ませた場合でも、400万円から500万円はかかるのではないでしょうか」
慶應、早稲田、青山学院の対策は
慶應義塾幼稚舎のホームページを見ると、「幼稚舎の入学試験は、様々な活動を通じて志願者のありのままの姿を見るものですから、入学試験のために特別な準備は必要ありません」と書いている。しかし、「当然ながら個別の対策が必要」と、いとう氏が解説する。
「慶應幼稚舎はペーパー試験がありません。運動と行動観察、絵画のテストで子どもを評価します。体操教室と絵画教室に通うのは大前提で、絵画は大人が通うレベルの教室がいいいですね。青山学院初等部も幼稚舎と同様の対策が必要になります。慶應幼稚舎は『コネが必要』といわれていましたが、それは平成までの話です。今は表に出ると問題になりますので、ないに等しいと考えていいのではないでしょうか」
一方、慶應義塾横浜初等部や早稲田実業初等部に合格するための対策は、慶應幼稚舎とはまったく異なる。
「横浜初等部の1次試験はペーパー試験で、この時点で得点が上位4分の1の子に絞られます。算数的な計算式を操る力と、国語の読解力が必要です。早稲田実業も1次でペーパー試験があり、合格しなければ2次の面接に進めません。暁星、白百合、雙葉、成蹊などもペーパー試験に重きを置いている学校です。これらの学校を受験する場合、大手の教室に加えて、ペーパー試験専門の塾にも通う必要があります」
ただ、慶應や早稲田の小学校は、合格できたとしても、入学後の勉強は楽ではないようだ。
「合格すれば大学まで安泰だと思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。慶應幼稚舎の場合、平均程度の勉強ができる男子は中学で男子校の普通部に志望すれば進学できますが、そうではない男子は男女共学の中等部や湘南藤沢中等部を勧められます。女子の場合は中等部一択ですが、海外思考の高い家庭は湘南藤沢に進学する生徒もいます。その上、私立学校ですので、中学1年生から留年させられる生徒もいます。横浜初等部は慶應義塾内唯一、男女共学で小学校から高校までの12年間、小学校から中学校、高校までの進路パターンが限定されている附属校です。試験日程が11月の中旬の為、他校との併願も可能で人気が高く、湘南藤沢中等部・高等部の偏差値も上昇していますので、初等部からの内部生が湘南藤沢中高の基準を落とさないよう、特に厳しく勉強させます。勉強をしない子は中学や高校で留年を強いられさせられ、最悪の場合は退学せざるを得なくなると覚悟したほうがいいでしょう。実際に、毎年1学年に5人程度、多いときは10人ほど留年していると聞いています。勉強が厳しいのは早稲田実業も同じです。早稲田大学の附属校ではなく系属校ですので、早稲田大学に入学できるレベルにするために、小学校の段階からものすごく勉強をさせていることは知っておいたほうがいいと思います」
いとう氏は、慶應や早稲田の小学校は、大学と同じイメージを抱かないほうがいいと忠告する。
「慶應義塾横浜初等部は幼稚舎に比べて学内での勉強が厳しい上、生徒や保護者間のトラブルも多いと聞いています。開校10年の新設校なので慶應内でも亜流と呼ばれ、まだ疎外感もあるそうですので、早慶附属を志望するご家庭にはあまりお勧めしていません。大学の附属校や系属校といっても、大学とは教育方針が異なります。志望校を決める場合は、小学校から大学までの附属・系属の各学校の教育内容をよく確認して、ご家庭の方針と合致しているのかを見極める必要があります。大学のブランド名だけで決めないほうがいいでしょう」
「お受験」によって母親は通常ではない精神状態に
妊娠中や1歳前から動き始めるなど、名門私立小学校に我が子を合格させるための道は長く険しい。さらに、いよいよ受験が近づいてきたときには、なんとしても我が子を合格させたいと考える母親の感情がピークを迎えるという。
「お受験をしているお母さんたちのなかには、受験前には通常ではない精神状態になる方もいます。そんな妻をフォローするのが夫の役割です。ジャック幼児教育研究所では、父親講座を開催して妻との接し方を教えています。財力があれば、エステや買い物で妻の機嫌を取っている方もいるでしょう。そういう財力がない方や、どうにも妻を抑えきれない場合には、私のお受験情報サイトに登録していただくのも1つの方法です。月額1万円の低価格で、お母さまの愚痴もお聞きしメンタルケアにもご利用頂けます。お父さまにも妻の操縦方法をアドバイスしますので、大変だと思ったらご相談ください」
「お受験」は母親が主導するケースが大半だ。しかし、莫大な費用を払い、妻とも向き合わなければならない父親にも、相当の覚悟が必要であることは知っておいたほうがいい。
(文=田中圭太郎/ジャーナリスト、協力=いとうゆりこ/お受験コンシェルジュ・戦略プランナー)