ブラジルの経済的側面からW杯を見ると、同国は現在、成長の停滞が目立ち始めており、景気回復のための一大イベントとして、国民の期待は高まっている。だが、一方では今年に入ってから労働賃金の改善、公共料金、税金の値下げを要求する大掛かりなデモが国内各地で相次いでいる。
そこで今回は、ブラジル国内の物価基準、賃金、税金水準などの観点から、ブラジル国民が直面している経済問題を紹介していく。
●予想外の低成長に苦しむブラジル経済
近年、BRICSの1カ国として新興経済国との評価をされてきたブラジル。経済成長の原因の1つとして、3C(カラーテレビ・クーラー・自動車)を購入する中間層の増加が挙げられている。事実、サンパウロ、リオデジャネイロといった大都市の街中では、韓国や日本の大手家電、自動車メーカーの看板を頻繁に目にする。サンパウロ市内では交通渋滞が社会問題となっており、ニューヨーク・東京・バンコクといった都市と比較しても遜色ない交通量だ。
ブラジルに移り住んで30年以上となる、ブラジル日本都道府県人会連合会の会長・園田昭憲さんは次のように話す。
「一世帯当たりの自動車保有率は増え、大都市では慢性的な交通渋滞が目立ちます。昔と比べて、家電製品を購入できる層も増えていると思います。しかし、実際に国民の生活が潤っているかというと、そうではありません。増え続ける税金、物価上昇は深刻で、貧富の差はより広がっているかもしれません」
GDP成長率は2010年の7.5%をピークに、11年は2.7%、12年に至っては0.9%、13年の第1四半期の成長率はわずか0.6%にとどまり、バブル景気の経済成長に陰りが見え始めている。ブラジルスポーツ省によれば、W杯開催による直接的な経済効果は1.8兆円、波及効果は5.2兆円の計7兆円に及ぶと予想されているが、建築系の企業を除けば国民の生活に直接恩恵があるかどうかは疑問符が付くという意見も多い。
●マクドナルドとiPodに見るブラジルの物価水準
ところで、筆者はこれまで30カ国以上を歩いてきたが、その国の物価を判断する際の基準として、マクドナルドを1つの指標としている。ブラジルのマクドナルドでは、他国と比較して顕著な傾向が見て取れた。それは、「外国人利用客の比率が高い」「家族連れの割合が多い」という点だ。
イギリスの経済誌「エコノミスト」が各国の経済力を測るため、毎年発表しているビッグマック指数によれば、ブラジルのビッグマック1つ当たりの料金は4.94米ドルと、世界第5位の水準。セットメニューを頼むと、10ドルを超えるメニューも多く見られる(13年6月現在)。
ブラジルよりビッグマック指数が上位の国は、 1位のベネズエラを除けばノルウェー、スウェーデン、スイスといった世界でも有数の平均月収額の国々がランクインしている。
一方、「プレジデント」(プレジデント社)のデータによると、ブラジルの平均月収額は、大都市圏のサンパウロで約990ドル、リオデジャネイロで約750ドルと、上述の3カ国に比較して3分の1から4分の1程度である。月の最低賃金が678レアル(日本円で約2万9000円)のブラジル国民にとってマクドナルドは、気軽に使えるファストフード店ではなく、月に1度か2度の贅沢をする場所としての側面が強い。
また、iPodの販売料金は約370ドルで、こちらは世界一の高価格設定。参考までに、世界で最も安くiPodを買える香港では約148ドル。日本では約154ドル、アメリカでは約149ドル。この数字からも、いかに所得と物価水準がアンバランスになっているかがわかる。