受験者数・受験率の高止まりが続く首都圏の中学受験。今年(2024年)は“筑駒ショック”や男子御三家・新御三家の一部学校の受験者数減少などが注目されているが、どのような変化・傾向があったのか。そして来年の中学受験で留意すべき動きとは何か。専門家の見解を交えて追ってみたい。
首都圏模試センターの推定によれば、2024年の首都圏の私立・国立中学校の受験者総数は、過去最多だった前年より200名減の5万2400名(前年比99.6%)と過去2番目の多さとなり、受験率は過去最高の18.12%となった。同センターによれば、公立中高一貫校のみの受験者も含めると、首都圏の小学6年生のうち4.7人に1人が何らかのかたちで中学受験をしたという。
今年の中学受験では、どのような傾向・変化がみられたのか。首都圏模試センターの北一成教育研究所長はいう。
「最難関校・難関校の受験者数が概ね微減か横ばいになりました。ここ数年、中学受験の競争が激化しているといわれ続けた影響で、受験生の保護者の間で安定志向が強まったことや、中位以下の学校の教育内容がブラッシュアップされ、無理して高い偏差値の学校にチャレンジするよりも、どれだけその学校が自分の子どもの良い部分を伸ばしてくれるのかという点を保護者が重視するようになっていることが要因だと考えられます。そして同じ理由により、中位以下の学校の受験者数が微増しました。
大学入試改革が来年から本格化する点も、こうした動きに拍車をかけています。大学入試が大きく変わるため、これまでの各高校の合格実績があてにならなくなるかもしれないと考えた保護者が、大学合格実績だけではなくて、より大きな視野で学校選びを行うようになっています」
どのような学校の人気が上昇しているのか。
「グローバル教育やSTEAM教育に力を入れる学校です。コロナ禍の経験からグローバル教育の重要性がこれまで以上に重視されるようになり、これらにあまり注力する動きがみられなかった男子校でも取り組む学校が増えています。例えば佼成学園はここ2~3年で目立って人気が上昇しています。女子校でも山脇学園や三輪田学園、昭和女子大学附属などが高い人気を誇っています。
このほか、高大連携への取り組みも重視されています。三輪田学園は今年から法政大学への学校型推薦枠を30名に拡充しており、グローバル教育などとの相乗効果で人気が高まっています」
海城や巣鴨は人気上昇
麻布、武蔵、海城など、男子御三家(開成中学校・麻布中学校・武蔵中学校)、新御三家(駒場東邦中学校・海城中学校・巣鴨中学校)で受験者数を減らした学校が相次いだという情報も注目されている。
「目立って減っているわけではありませんが、たとえばある大手学習塾が発表した偏差値で麻布が渋谷教育学園渋谷中学校に抜かれたことが話題になるなど、変化が出始めているのは確かです。武蔵や麻布は、大学合格実績というよりは学校が持つ文化や伝統が多くの受験生を引き寄せてきましたが、価値観の多様化によって保護者の間で両校の“ファン”が以前よりは減りつつあるという面はあるかもしれません。
一方、グローバル教育に力を入れている海城や巣鴨は再び人気が上がっており、海城は人気が過熱しすぎたため倍率が高くなると考えて受験を見合わせる動きが出たことで今年は減ったのではないでしょうか。巣鴨は近年人気が低下傾向でしたが、同校は英イートン校のサマースクールに首都圏の男子校で唯一参加を承認されており、17年からは各分野で活躍する英オックスフォード大学やケンブリッジ大の卒業生を講師として招く『巣鴨サマースクール』を行うなどグローバル教育に力を入れており、こうした取り組みが徐々に保護者から認知・評価されるようになり人気が高まっています。
このほか、新御三家の駒場東邦中学校も近年は人気が下降ぎみでしたが、ここ数年は東京大学をはじめ大学への合格実績の向上に伴い人気が高まっています」
今年は男子校の最難関校の一つ、筑波大学附属駒場中学校の合格辞退者が例年の数倍に跳ね上がったという“筑駒ショック”も話題となっている。
「これまでは筑駒と難関私立の両方に合格した学生が、国立ゆえの授業料の安さから筑駒に入るというパターンが多かったですが、今年から東京で高校授業料助成の所得制限が撤廃され、実質無償化がスタートすることを受けて、『グローバル教育に注力していて、学習環境も整った私立を選ぶ』という人が一定数生じた可能性があります。現在では開成などもグローバル教育の強化を打ち出しており、そうした私立の難関校に一部の合格者が流れているのかもしれません」
では、来年(25年)の中学受験で押さえておくべき動向や予想される変化とは何か。
「まず、『中学受験の競争が厳しい』といわれるものの、私立の学校数は大幅に増え、さらに公立中高一貫校も加わっているため、バブル崩壊直前の第1次ピーク(1991年)やリーマンショック直前の第2次ピーク(2007年)の頃と比べると緩いです。なので、必要以上に怖がる必要はありません。
その上で、入試改革や高大連携などの最新動向をチェックしつつ、各学校の情報発信を調べたり学校説明会にこまめに足を運ぶことです。前述のとおり、今ではさまざまな価値観やタイプの学校があるので、自分の子どもとの相性なども考えながら、しっかりと学校選びに取り組むことが大切です」
(文=Business Journal編集部、協力=北一成/首都圏模試センター・取締役教育研究所長)