ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 中学受験、塾などで総額1千万円も
NEW

中学受験対策、塾などで総額1千万円も…「小1でSAPIX入塾」も当たり前

文=田中圭太郎/ジャーナリスト、協力=北一成/首都圏模試センター・取締役教育研究所長
【この記事のキーワード】, , ,
中学受験対策、塾などで総額1千万円も…「小1でSAPIX入塾」も当たり前の画像1
「gettyimages」より

 今年も中学受験シーズンが本番を迎えた。首都圏では1月に入って私立中学の入試が始まり、2月1日からは東京や神奈川の私立中学で入試が本格化する。首都圏の中学受験はここ数年過熱していて、昨年は国立と私立中学の志願者数が過去最高を記録した。塾通いを始める時期の早期化も進み、塾にかかる費用も膨らんでいる。首都圏の中学受験の実態を、首都圏模試センター取締役教育研究所長の北一成氏に聞いた。

今年も志願者数は高止まりか

 首都圏の中学受験の過熱ぶりは数字に表れている。首都圏模試センターによると、2023年入試では私立と国立の志願者数が約5万2600人となり、過去最高を更新した。志願者数は2015年から9年連続で増加している。公立の中高一貫校の志願者を合わせると6万3000人あまりと推定され、首都圏の小学6年生のおよそ4.65人に1人が中学受験を経験したことになる。

 首都圏模試センターでは、首都圏で最も多い参加者数を誇る「首都圏模試」を実施していて、中学受験の志願者の動向を把握している。北氏は、2024年入試を次のように分析する。

「2024年も厳しい受験になることは変わりません。多くの塾が国立と私立の中学の志願者を、昨年と同じくらいか少し増えると予想されているのではないでしょうか。首都圏模試センターでは、首都圏の6年生が前年から5840人減少しているのを考慮して、昨年より600人ほど減ると予想しています。それでも受験する児童の割合は前年より増えるので、今年も高水準であることに変わりないですね」

SAPIXを中心に進んだ入塾時期の早期化

 中学受験が過熱する中、最難関校を目指す世帯に見られるのは入塾時期の早期化だ。以前は中学受験に必要な学習カリキュラムは、3年間あれば十分と考えられていた。最難関校を目指す場合でも小学4年生に進級する直前、小学3年生の2月に入塾するのが一般的だった。ところが、最難関校や難関校の合格実績を上げているSAPIXなどの大手塾では、小学1年生から入塾するケースも多くなっている。北氏によると、早い時期に入塾しなければ、後からでは入れないこともあるという。

「首都圏の大手塾では、1学年の人数は日能研で1万人を超えるくらいなのに対し、SAPIXが6000人から7000人くらいです。SAPIXに入ること自体が狭き門になっています。そのため、優秀な児童が1年生から集まるようになり、2年生からでは入れない教室もあると聞きます」

中学受験にかかる費用は400万円~1200万円?

 大手塾に通うためにどれだけの費用がかかるのかは、各塾の説明会などに参加して説明を聞かなければ分からない。一般的に大手塾は低学年では費用が低く、学年が上がるごとに高くなる。その実態を北氏は次のように説明する。

「中学受験の塾にかかる費用は200万円がベースといわれますが、これは最も少ないケースです。大手塾では4年生で80万円、5年生で100万円、6年生で120万円の合計300万円くらいがベースになります。

 それ以外にも、6年生では講習などを受講することで、さらに費用がかかります。苦手な分野を家庭教師や個別指導塾でカバーする家庭も多いと思います。もしも1年生から6年生まで大手塾に通えば少なくとも400万円、家庭教師なども活用した場合は1200万円にのぼることもあるようです」

大学進学までの教育費の総額は

 もちろん、教育費は中学受験で終わりではない。私立中学に進学すれば、中学や高校の学費、塾の費用、それに大学の学費も必要になる。首都圏の場合、教育費の総額は一般的にいわれている額より大きくなっていると北氏は指摘する。

「私立の中学、高校、大学に通った場合に、教育費が総額1800万円くらいかかるモデルケースが雑誌などによく掲載されています。けれども、現実には大学卒業までに2000万円を超えることもあるでしょうし、2400万円くらいかかるケースもあると思います。

 さらに、東京大学の理科Ⅲ類(医学部)をはじめとする超難関大に子どもを進学させたいと考える家庭は、もっと費用をかけるでしょう。首都圏の中学校を持たない非系列校の私立小学校では、高い学費がかかる上に、1年生からSAPIXに通って難関中学を目指す児童が多いと聞きます。どのような目標を選ぶのかによって、教育費は大きく変わってくると思います」

世帯収入と学歴は相関関係あるが変化も

 教育費の実態から考えると、費用をどれだけかけるのかによって、子どもの学歴が決まるのではないかと思ってしまう。しかし、北氏は必ずしもそうではないと話す。

「国立であれば東京大学、私立であれば早稲田大学、慶應義塾大学などを目指す場合には、世帯収入が高い世帯が有利になる面はあるでしょう。一方で、小学校から大手塾に通っていなくても、難関大学に進学する人はいます。世帯収入と学歴に相関関係はあるけれども、全てではないということです。

 首都圏の中学入試も、最近は変化しています。一つが中堅校の教育の充実です。難関校ほど偏差値は高くないものの、生徒の将来を見据えた教育カリキュラムがある学校や、高大連携によって大学の推薦枠が充実している学校が増えてきました。中堅校であれば中学受験に向けた学習は2年間くらいでも十分対応できます。「プログラミング入試」や「グループワーク入試」など、教科の学力以外の能力を見る入試を導入している学校もあります。

 もう一つは公的負担の充実です。東京都は2024年4月から、私立を含む高校授業料の助成で所得制限をなくす方針を示しました。国の高校就学支援金は年収910万円未満の世帯が対象で、東京都は独自の助成を上乗せしてきましたが、年収910万円を超える世帯でも、子どもを2人以上私立高校に通わせるのは大変です。所得制限の撤廃は中学受験のハードルを下げることにもつながるのではないでしょうか」

公的助成には公平性も必要

 ただ、東京都による所得制限撤廃は、あくまで都内在住の生徒を対象にしている。東京都内の私立中学には周辺の県からも多くの生徒が通っているが、住む場所が違うだけで公的助成が受けられない事態となる。大阪府が2024年からの段階的な導入を目指している、府内の全高校生の授業料無償化にも同じ問題点がある。北氏は公的助成について次のように指摘する。

「これまでは公立学校のほうが実質的には補助されてきたわけですから、私立学校に通う生徒への公的助成が高まることはいいことだと思います。しかし、特定の地域に住んでいる生徒だけが対象になることには不公平感もあります。住宅費などは確かに違うものの、教育に関する制度ですので、全ての生徒に公平であってほしいです」

 経済協力開発機構(OECD)が2022年10月に発表した、国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合では、日本は2.8%と加盟37カ国中36位の低水準だった。この状況を踏まえても、公的助成は全国の全ての生徒が同じように受けられる仕組みが望ましいのではないだろうか。北氏は中学受験の志願者数が増加している中、「私立学校の教育を誰もが選択しやすい環境になれば」と話している。

(文=田中圭太郎/ジャーナリスト、協力=北一成/首都圏模試センター・取締役教育研究所長)

北一成/首都圏模試センター・取締役教育研究所長

大手学習塾を経て2013年首都圏模試センター入社。通算38年間中学受験に関わる。学校情報・入試予想と分析を専門とし、約400校の中高一貫校を取材。
首都圏模試センターのHPより

Twitter:@syutomosi_sc

中学受験対策、塾などで総額1千万円も…「小1でSAPIX入塾」も当たり前のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!