例えば、今までは反習近平(反主流派)の頭目であり、最高幹部の一人だった公安(警察)に強い影響力を持つ前常務委員・周永康氏の権力を削ぐために、その周辺関係者の不正を摘発することに力が置かれてきた。尖閣国有化後、2012年9月に中国で反日の暴動が起こったのも、この周氏が黒幕とみられている。胡錦濤氏から習近平氏へ権力が交代する政権端境期の隙を突いて、新政権に揺さぶりをかけたのであろう。中国事情に詳しいジャーナリストは「暴動に参加すると日当が出るため、なんの政治的な信条もない地方の農民が駆り出された。その日当の資金源は、周氏に近いところから捻出されていたのではないか」と話す。現在は、周氏自身に司直の手が及ぶか否かが中国内で注目の的になっている。
習近平氏は、綱紀粛正の担当に前副首相の実力者、王岐山氏を起用したことで、中国通は「かなり本格的な取り締まりが展開される」と予想していた。この王氏自身も裏の顔は、いわゆる「悪徳お代官的」な政治家といわれており、悪の実態を知る「悪」に取り締まりを任せたわけで、この人事は「山口組のトップが警察庁長官を務めるようなもの」と揶揄する声も出ていたほどだ。池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』の主人公、火付盗賊改方長官・長谷川平蔵の名台詞「悪を知らなければ悪を取り締まることはできない」をそのまま地でいく人事でもあった。
特に昨年は、地方都市の書記(市長に相当)クラスの幹部が狙い撃ちにされたようだ。高級ホテルでの税金を使った官製パーティーなどにも厳しいチェックが入り、そうした現場の密告なども奨励されていたという。不満がたまった国民の中には、地方の共産党幹部のご乱行の現場を携帯電話のカメラで撮影して投稿サイトに送り、それを見た当局が調査に入るケースもあったといわれているが、日系企業の幹部が実態をこう話す。
「中国のある地方都市に子会社が工場を建設することになったので、その都市の書記に挨拶に出向く約束をしたら、書記が高級ホテルで歓迎パーティーを開いてくれることになりました。しかし、直前になってドタキャンとなり、市役所の職員食堂で出前を取っての歓迎会に変更となりました。その際に書記からは『すみませんが、市民の目が厳しいので、市庁舎での晩餐会とさせていただきました』と説明されました」
こうした動きが強まった結果、中国では地方に行くほどホテルでの宴会が激減し、乾杯に使う「白酒」の販売も落ち込んでいるという。なかには、経営危機に陥った酒造メーカーもあるほどで、腐敗に対する綱紀粛正の厳しさを物語っている。
●穏便処置の公安幹部は解任
また、風紀取り締まりの対象が民間人や外国人にまで及び始めている件に関しては、特に3月17日からの約3週間は、上海地区で徹底的な取り締まり作戦が展開される予定だ。大企業の中には「普通のスナックでも、女性接客員がいる店では羽目を外す行為は絶対にしないでください」と呼びかけているところもある。今回厳しいのは、不意打ちの検査で、これまでは見逃してくれた「パスポート不携帯」だけでも、出入国管理法違反で500元(約8500円)の罰金が科せられるほか、性的なサービスを受けるわけではなく酔った勢いで衣服を脱いで騒ぐだけでも、5000元(約8万5000円)の罰金か拘留10日の処分が下されるほどだ。疑われただけでも強制連行されて、公安で取り調べを受けることになるという。
もし、出張者の売春行為などが見つかった場合、これまでは裏から公安に手を回して処分が下される前に穏便に解決する対応が常套手段だったが、今回はそれがまったく通じそうになく、共産党本部は、穏便に済ませた公安幹部は解任するとの通達も出しているという。取り締まりに手心を加えられないように、あえて本来の管轄外の地域を取り締まりの対象地区にするなどの対応もしている。売春の不法行為者には、確実にビザの強制取り消しや長期間の再入国禁止、あるいは懲役5年程度の処分が下るという。
(文=編集部)