今クールの連続テレビドラマ『極悪がんぼ』(フジテレビ系/毎週月曜夜9時放送)は、ラブストーリー路線が中心の「フジ月9」枠としては異例の「裏社会モノ」となり、放送開始当初話題を呼んだ。
架空の地方都市、金暮市(かねくれし)に住む主人公・神崎薫(尾野真千子)は、交際相手のせいで多額の借金を背負い、“事件屋”小清水経営コンサルタントで働くことになり、法律の網をくぐって他人の揉め事に対処することを生業とする事件屋、そして裏社会の厳しさを学んでいくというストーリーだ。
本ドラマの放送を受け、一部インターネット上などでは「事件屋って、実在するの?」「現実はどんな仕事なのか」などと事件屋への関心が高まっているという。そこで今回、本ドラマの法律監修を担当しているさくら共同法律事務所の山脇康嗣弁護士に、知られざる事件屋の実態について聞いた。
–本ドラマに登場するような事件屋は、本当に存在するのでしょうか?
山脇康嗣弁護士(以下、山脇) 実在します。古今東西、人や組織にまつわるトラブルは“飯の種”になります。昭和8年(1933年)5月に成立した「法律事務取扱ノ取締二関スル法律」で事件屋が禁じられましたが、かなり古い職業といえます。全国どこでも、事件屋のいない都市はないほどです。
–具体的には事件屋とは、どのような職業を指すのでしょうか?
山脇 法律上の明確な定義はありませんが、弁護士の資格を有さずに他人の揉め事や争い事に介入して、経済的利益を得ることを生業とする人々を指します。表社会では解決できない、されない事件を解決する裏稼業の俗称です。
–具体的には、どのような活動をしているのでしょうか?
山脇 事件屋の活動はさまざまですが、典型的なのが交通事故などの示談屋、さらに作中でも描かれていた倒産整理屋や、手形詐欺を働くパクリ屋とサルベージ屋。総会屋や地上げ屋も事件屋のひとつです。最近多いのは、特殊詐欺(架空請求詐欺、ギャンブル必勝法情報詐欺など)の被害を救済するとか、ネット上の誹謗中傷書き込みを削除するというパターンですね。
事件屋は裏稼業なので、これまで大っぴらに広告を打つことは少なかったのですが、最近はネット広告を堂々と出す業者も出てきています。被害者の属性も含めて、インターネットと事件屋は親和性が高まりつつあるといえるかもしれません。
–事件屋の活動は、合法なのでしょうか?
山脇 弁護士資格なく他人の紛争に介入することは、弁護士法違反になります。本ドラマでも、毎回最後に「報酬を得る目的で無資格者が他人の紛争に介入することは違法です」という注意書きが表示されています。弁護士は、司法試験でその法的能力を担保されていますし、厳格な職務規程があります。しかし事件屋はなんでもありですから、自分の利益のために依頼者の秘密を売ったり、時には依頼者と相手方の両方から金を巻き上げたりする違法な存在です。
–どういう人々が事件屋の被害に遭いやすいのでしょうか?
山脇 手口がさまざまなので、被害者もさまざまです。最近多いのは、ベンチャーの若手経営者が法人乗っ取り屋に狙われるケースです。彼らは甘い言葉で増資を持ち掛けて株式を発行させたあげく、議決権を行使して役員を解任したり、それを口実に経営者を脅して、企業を乗っ取ったりします。事件屋には、作中で椎名桔平さんが演じている冬月のように、法制度の裏をかく知能犯もいます。粗暴的ではないこういうタイプは一見して危ないとわからず、法的知識に疎く脇が甘い若手経営者は取り込まれてしまうのです。
弁護士を装う事件屋も
–事件屋稼業をしている人々の素性は、どのようなものなのでしょうか?
山脇 競売がらみなどでは法律家くずれが多いですね。過去にトラブルを起こして懲戒となった弁護士が事件屋になっている例もあります。中には、法律事務所自体が事件屋の乗っ取りに遭っていることもあります。
–つまりトラブル解決を弁護士に依頼したと思っていても、実は仕切っているのは事件屋だったということもあるのでしょうか?
山脇 ありえます。例えば、契約書や金額についてはっきりしない、弁護士が対応せずに事務員がすべてを仕切っている、などです。「おかしいな」と思ったら、セカンドオピニオンとして他の弁護士に話を聞くことが大切です。
–事件屋がなくならないのはなぜでしょうか?
山脇 まず、警察の民事不介入という原則があります。また、これまで弁護士の人数が足りず、個々のケースまで対応できなかったこと。さらには、トラブルが起きても法や裁判での解決を望まないという日本人の国民性もあるでしょう。
–事件屋の被害に遭わないためには、どうしたらいいのでしょうか?
山脇 とにかく、事件屋が近づいてきても相手にしないことです。彼らは日ごろからトラブルになりそうな種を探しています。また、口コミによる紹介で被害に遭うことも多いですね。素性が怪しくても、知り合いの紹介だと思うとつい信用してしまうのです。特に事件屋は、ある程度法的な知識があって、親切そうに振る舞うので、頼りがいがあると感じてしまうようです。紹介した人すら、事件屋だと気付いていないこともあります。知り合いの紹介であっても、無資格者は相手にしないことです。
また、被害に遭っていたとしても、事件屋はしょせん裏稼業なので、きちんとした資格をもった弁護士から警告すれば、それ以上手出しはしてきません。トラブルが発生したら、必ず弁護士に相談してください。
本ドラマを見ていると、所員のキャラがダークヒーローとして魅力的で、トラブルを抱えたときには、つい頼りたくなってしまうかもしれません。それは、ドラマとしては成功していますが(笑)、板尾創路さんが演じる抜道が毎回最後で「被害にもあわないようにお気を付けください」と言っているように、トラブル処理を事件屋に頼んでも被害に遭うだけです。本ドラマは、人間の業や欲を見つめて社会の不条理を知り、「どんな逆境にあってもなんとか踏ん張るべきである」という作者のメッセージに共感しつつも、事件屋の恐ろしさを肝に銘じ、くれぐれも彼らに頼ってはいけないということを感じ取るのが、「正しい」見方だと思います。
–ありがとうございました。
(構成=降旗愛子/株式会社デファクトコミュニケーションズ)