しかも、10年の消滅時効を迎えた債権分についても、時効の事実を無視して請求を行い、返還や猶予の手続きをしないまま9カ月延滞すれば、元金、利息、延滞金の一括繰り上げ請求を行うなど、その取り立てはえげつない。救済策としては、自己破産をすれば奨学金返済からは逃れられるが、就職氷河期を乗り超えて、なんとか職に就き、生活を安定させようとしている20~30代の若者にとって、社会的な信用を失いかねない自己破産は心理的なハードルが高い。
返しても返しても膨らむ借金は、漫画『闇金ウシジマくん』(真鍋昌平/小学館)で味わったような絶望感に通じる。しかも、『闇金ウシジマくん』よりも深刻なことに、政府のお墨付きを得ている事業なのだ。
●貧困ビジネスと化した奨学金
そもそも、かつての日本育英会の「奨学金」は無利息だった。1984年、アメリカ型の「小さな政府」を目指した中曽根康弘自民党政権が日本育英会法を改正。政府や金融機関から融資を受けた有利息の枠がつくられ拡大していった。2000年代には日本育英会から日本学生支援機構への組織改編が行われ、奨学金制度を「金融事業」と位置付けるようになった。98年から13年度の15年間に有利息の貸与人員は約9.3倍に膨らんだ。
しかし、「失われた20年」と呼ばれ、就職氷河期が続き非正規労働者が増える一方だった最近の20年間で、若者たちが抱える奨学金返済の負担は大きくなり、現実的に返済困難者が続出するようになった。
日本学生支援機構の会計資料によれば、10年度の利息収入は232億円、11年度275億円、12年度318億円。延滞金収入は10年度37億円、11年度41億円、12年度43億円と増加傾向にあり、利息と延滞金の合算で年間360億円の収入となっている。その一部は政府や民間金融機関への返済に充てられるが、それでも、12年度の総利益は39億円に上るのだ。
つまり、機構に融資をする政府や金融機関、債権回収をするサービサー、訴訟を担当する弁護士事務所が、生活費にも困窮する若者たちを食い物にし、奨学金制度が「貧困ビジネス」と化しているのだ。
同書では、消費者金融・武富士の違法な取り立てなどを告発したジャーナリスト・三宅勝久氏も次のように憤る。
「やはり最大の問題は延滞金です。『教育の機会均等に寄与する』(略)とか、もっともらしいことを言いながら、その欺瞞がよくわかるのが延滞金です。1円もまけません。何十万円であろうが100万円以上であろうが一括で返済しろ(と迫る)。あの武富士でもやらなかった頑なさです」
日本が手本としたアメリカでは、奨学金機構を民営化した民間学生ローン「サリーメイ」が利潤追求に走り、多くの返済困難者を生み出して社会問題になったが、日本でも同様の悲惨な光景が広がっているのだ。
(文=編集部)