●BS受信料収入という金脈
NHKの収入の97~98%が受信料であり、安定しているのは誰もが知るところだが、ではなぜ、これほどNHKはお金持ちなのか。小田桐氏はその理由として、衛星放送(BS)受信料の伸びを挙げる。
「実は、1971年度を境に、毎年収入の伸びが低下していきます。テレビの普及自体が限界に近づく中で、増収の頼みの綱である地上波は、白黒からカラー契約への切り替えが頭打ちになりました。受信料不払い世帯への徴収には限界がありましたが、89年6月にBSが本放送を開始し、カラー放送以来の新しい収入源になったのです」
1950年から2009年までの財政状況をグラフ化したものを見れば、一目瞭然だ。受信契約件数はあまり伸びていないにもかかわらず、事業収入は89年(平成1年)以降、大幅に増えていった。4000億円程度だった収入が、91年には5135億円になり、97年には6117億円となったのだ。BSの受信契約者は順調に伸びてきたのだ。
BSの伸びは、視聴者ニーズの変化によるところが大きい。小田桐氏自身、「民放はもちろん、NHKも地上波はあまり見なくなった」と語るが、スポーツや映画のみならず、多様化したニーズに的確に対応しているのはBSということのようだ。
今後もNHKの独り勝ち状態は続きそうな気配だ。アベノミクスで景気が上向いたとはいえ、広告収入がメインの民放の経営が景気に左右される構造は変わらない。その広告費も、企業は年々、テレビや新聞からネットメディアに比重を変えている。さらに最近では、NHKがゴールデンタイム(午後7時~同10時)や朝の情報ワイド番組の平均視聴率(関東地区)で、1位になることも珍しくなくなった。報道やドキュメンタリー、スポーツなどで圧倒的な予算を使った番組制作は、民放の追随を許さない。また、人気タレントを起用した若者向け番組や民放を意識したバラエティ番組が増えているといわれ、高齢者向け番組が多かったNHKのイメージも大きく変わってきた。昨年の朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の大ヒットもその1つだろう。
●危ぶまれる政治的中立性
そんな中、今年1月、日本ユニシス特別顧問の籾井勝人氏が新しいNHK会長に就任したが、就任早々、特定秘密保護法に関して「通っちゃったんで、言ってもしょうがない」「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」など発言し波紋を呼んだ。籾井氏の就任に先立ち、安倍晋三首相は昨秋、NHK経営委員に自らに近い4人を任命。その中のひとりである作家の百田尚樹氏は東京都知事選の応援演説で「南京大虐殺はなかった」と発言、哲学者の長谷川三千子氏は朝日新聞東京本社で93年に拳銃自殺した新右翼活動家をたたえる追悼文を委員就任前に寄稿していた。
小田桐氏は「政治との距離、中立性がNHKの一番の問題」といい、NHKが毎年、事業計画と予算について国会で了承を得なければならない仕組みが、NHKの独立性を阻害している要因の1つと指摘する。
「イギリスのBBCは10年に一度大議論して、受信許可料を決めたり、事業計画などを作成します。NHKも3カ年や5カ年の中長期計画を立てていますが、国会の予算承認も、その頻度でいいのではないでしょうか。予算の承認が毎年では、時の政権の顔色をうかがうようになるので、経営委員の承認で済ませるようにする。ただ、現状は経営委員の選び方が不透明です」
経営委員会のメンバーは委員長を含めて12人で、国会の同意を得て首相が任命する。よって、今の仕組みのままでは、政治からの中立性は担保できない。小田桐氏は「経営委員は公募制にして、視聴者から選ばれるようにすべき」と提案するが、受信料を払っている視聴者は、株式会社でいえば株主のような存在だ。そんな視聴者の声を、もっとNHKの経営に反映される仕組みづくりが求められているのではないだろうか。
(文=横山渉/ジャーナリスト)