昨今、悪い意味で世間の注目を集める脱法ハーブ。相次ぐ交通事故や県議会議員の所持など事件や事故が相次いだことで、政府も本腰を入れて対処すると発表した。
危険性の認識を市民の間に広めるための新しい名称を警察庁などが公募した結果、「危険ドラッグ」と決まった。浸透するかどうかは別問題としても、乱用防止のキャンペーンなどで使用されて、今後の規制や取り締まりはいっそう強化されていくとみられる。
実際、脱法ハーブの販売を広く規制することができれば、一定の抑止力となることは間違いない。だが、脱法ハーブをとりまく現状を取材していくと、規制の進行に連動して起きる意外な現実が浮き彫りになってきた。
●摘発を逃れる意外な手口
これまで違法ではないとして扱われていた脱法ハーブが、規制薬物に指定されることで違法となる。そうなると、すでに販売済みの製品については、所持しているユーザー自身によって廃棄することが求められる。厚生労働省は、個人で焼却すると煙に薬物の成分が含まれてしまうなどの問題が起きるため、所持者が生ゴミなどと一緒にして燃えるゴミとして出すように呼びかけている。
このように個人に処分が委ねられる違法薬物というのも珍しいだろう。裏を返せば、所有している個人を捜査機関が把握して摘発するのは難しいということを示している。また、捜査機関が摘発対象としたいのは個人ではなく、販売店のほうである。ヘッドショップと呼ばれる路面店やインターネットショップは、個人の所有量とは桁違いの在庫を抱えているため、規制されたからといって簡単にすべて処分できるものではない。違法となったハーブの在庫はどこにいくのか。東京・新宿にあるヘッドショップの常連であるAさん(仮名)が、思わぬ保管先について教えてくれた。
「在庫処分は、どこのお店でも悩みどころだろうと思います。私の家にも箱に詰められた大量のハーブが送りつけられてきました。どういうことか送り主に問いただしたら『違法薬物に指定されたので預かっていてほしい』とのことでした」
Aさんによれば、預かる報酬として「多少なら使ってもいい」と言われており、また、店舗の在庫規模を考えれば「自分だけが預かっているわけではないだろう」という。
違法となったハーブを他人に預けて一時しのぎする業者は、今後も増える可能性が高い。なぜならば「取り締まりが厳しくなっても、見せしめとして何軒か潰れれば、しばらくして他の店はまた元に戻る」「世間の注目が集まる期間だけ逃げ切ればいい」と多くの業者は考えており、分散保管してほとぼりが冷めるまで息を潜めているのだ。
商売人としては、元手を掛けて仕入れた商品をそう簡単にゴミにはできないと考えるだろうが、やり方は犯罪そのものである。とはいえ、Aさんのような一般客に預ければ、店側は警察に通報されるリスクなどもあるだろう。
そこについては、預け先として選ぶ際の基準があるという。それは、もともと違法品である覚せい剤や大麻といったハードドラッグの経験者であることだ。そうした人たちは脱法ハーブを所持することに戸惑いはなく、警察に駆け込む可能性も低い。