●常習者が明かす、脱法ハーブ使用者の事故が頻発する理由
取材の過程で、常習者の言葉の中に脱法ドラッグを使用した者たちが相次いで事故を起こす原因を探るヒントがあったので、ここで警鐘を鳴らすとともに紹介しておきたい。
過去に何度も薬物によるトラブルを起こしているBさん(仮名)は、薬物への出費を安価に抑えるべく、数年前から積極的に脱法ハーブを使用してきたという。最初こそ効き目が弱く「代用品」でしかなかったが、法律の抜け穴を探り、生み出された製品は、効き目が強力になってきたと語っている。強力な脱法ハーブの効能は、ある程度薬物に慣れた者でもない限り、高い確率で大事件に発展しかねない危険性があるというのだ。
「最近のニュース沙汰になっている事故は、素人が最初から大量に吸い、後から症状が一気に襲ってきた結果だと思う。ドラッグにも手順があると知るべきだ」
Bさんは脱法ハーブの効能と使用者の経験値の関係性について、このように語っている。Bさんに限らず、今回取材した脱法ハーブ経験者のほとんどが同様の意見を持っていた。薬物を摂取した時の体の変化は、経験がないと対処しきれないところはあるのだろう。そのことが常軌を逸した事故を引き起こす原因のひとつとなっているのかもしれない。
●脱法ハーブの過度な規制は、ねじれを生む?
4月1日から施行された改正薬事法では、指定薬物が含まれた脱法ハーブの所持、使用、購入、譲渡が禁止されるようになった。違反すれば「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、または両方の刑罰を科す」と定められている。
実刑を含む刑罰が定められているのは、一般的な薬物事件と比べても極めて重い。
しかし、あまりにも強い規制は不合理なねじれを引き起こしかねないと、ハーブ利用者たちは懸念し、次のように語る人もいる。
「覚せい剤でも初犯なら実刑になる確率は低いのに、脱法ハーブを使ったり持ったりして実刑になるのはおかしい。それなら覚せい剤を買ったほうがいいということになる」
現在の取り締まりは、時流や世論の後押しを受けている上に、無関係な一般市民が大きな事件や犯罪に巻き込まれないようにとの予防措置の側面が強い。この流れ自体は正しいことであり、弱める必要もないだろう。
一方で、水面下で起きている薬物常用者や販売店などの動きも無視できない。薬物は古来、行政がどんなに規制しても法の網をかいくぐってきたものであり、違法指定したところで簡単に流通が止まるものでもない。そのことをきちんと把握して、捜査機関や行政は規制後の摘発方法を検討し、また危険性の啓蒙活動を続けていくべきだろう。もちろん、市民の側も興味本位で手を出すようなことは、今後も避けなくてはならない。
(取材・文=丸山佑介/ジャーナリスト)
●丸山佑介
1977年生まれ。フリージャーナリスト。国内外の危険地帯に潜入取材を繰り返す。『海外あるある』(双葉社)、『アジア親日の履歴書』(辰巳出版)ほか著書多数。