●スーパーセルがもたらす被害とは
–スーパーセルが発生すると、どのようなことが起こるのでしょうか?
小林 強雨や降雹、ダウンバースト、雷などをもたらします。そして、スーパーセルの一番の特徴は、前述の通り積乱雲自体がねじれて回転すること。この回転をメソサイクロン(竜巻低気圧)と呼ぶのですが、動画でも見て取れるように壁雲として肉眼でも確認でき、この渦が地上にタッチダウンすると竜巻になります。直径10kmにもなるメソサイクロンはドップラーレーダー(ドップラー効果による周波数の変移を観測することで、対象の位置と移動速度を観測するレーダー)で探知することができるので、これを用いて竜巻注意報を出すわけですが、結局そこから竜巻が発生して地上にタッチダウンするかどうかは、現状では科学的にもレーダー技術でもわかりません。つまり、いつ地上にタッチダウンするのか、あるいはどのくらいの強さの竜巻が発生するのかがわからないので、竜巻予測は困難なんです。
–つまり、動画の中の回転している雲が地上に降り立つと竜巻になるんですね。
小林 その通りです。もちろんスーパーセル以外からも竜巻は発生するのですが、この竜巻が非常に恐ろしいもので、F5(藤田スケールという、竜巻を強度別に分類する等級で、数字が大きいほど規模も大きく、通常F0~F5までで表される)の竜巻になると、地上にある構造物はほぼ壊滅します。とにかく地上にあるものはすべて壊れると思わないといけません。ですから、アメリカでは地下シェルターをつくって、そこに逃げ込むわけです。
●関東はスーパーセルが発生しやすい地域
–6月14日に秋田県三種町で竜巻が発生しましたが、やはりスーパーセルや竜巻は日本でも発生する可能性があるということですよね?
小林 もちろんです。アメリカ中西部は「竜巻街道」と呼ばれ、竜巻の多発地帯ですが、実は日本の関東も同じような条件です。下層では太平洋からの南風が入ってきて、中層では奥多摩など西方の山地を越えた風が変化していく。つまり、関東は日本でもスーパーセルが発生しやすい地域ともいえます。2012年にもつくばで壊滅的な被害を与えた竜巻が発生したにもかかわらず、「東京23区では発生しない」と信じ込んでいる人が非常に多いのもおかしな話です。
もちろん、秋田県で起こったように竜巻は関東だけではなく、日本全国どこでも起こり得ます。日本で発生する竜巻の半分は温帯低気圧に伴っていますから、年間を通じて北は北海道から南は沖縄まで、どこで起こってもおかしくありません。
例えば06年に北海道佐呂間町で発生した、死者9人という日本の竜巻による被害では最悪の死者数を出した竜巻があります。最も竜巻が起こりにくい地域、しかも道東の11月の冬ですよ。その佐呂間町でF3の竜巻が起こっているのですから、日本のどこの地域でも「竜巻が発生しない」とは言い切れません。
さらに、つくばで発生した竜巻も気象庁の記録ではF3ですが、局地的には風速が100 m/sを超えていた可能性が指摘されています。つまり、日本でも条件さえ整えば、F4やF5の竜巻が発生する可能性は十分にあります。細かく見れば起こりにくい場所、起こりやすい場所は当然出てきますが、起こらないということはまったくないんです。
–ありがとうございました。
スーパーセルや竜巻というと、米国で発生しているイメージが強かったが、やはり日本全国どこでも発生する可能性があるというわけだ。スーパーセルが発生しづらい地域でも、他の要因で竜巻が発生する可能性はある。日本では台風による雷雨などばかりが注目されがちだが、日ごろから竜巻への警戒も怠ってはいけないといえよう。
(文=千葉雄樹/A4studio)
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