だが、果たして本当に医学部は最難関なのか実際に調べてみると、必ずしも世間一般のイメージ通りとはいえない実情が浮かび上がってくる。
医学部の偏差値を見ると、国公立大学に関しては受験ヒエラルキーの頂点にあることは確かのようだ。進学に際して義務付けられるセンター試験の得点率を見ても、最も偏差値の低い大学でも東京大、京都大の理系(医学部以外)レベルの難易度だ。ただ、近年は僻地の医師不足を解消するために設けられた地域枠(条件は卒業後、大学のある都道府県内の医療機関に一定期間勤務する)を導入する大学が増加しており、偏差値が必ずしも難易度を反映したものではないとの指摘もある。
さらに私大の医学部になると、事情はかなり異なってくる。もちろん最難関と呼べる大学もあるが、それほどでもない大学もある。別表に示したように受験科目や教科数がほぼ重なる私大理系(医学部以外)のトップクラスと比較しても、難易度で見劣る医学部は少なくはないのだ。また他の学部では有力大学のほとんどが開示している合格最低ラインを開示していない医学部が28大学中12大学もある。1校あたりせいぜい100名前後の定員なので容易に算出できるはずなのだが、あえて公表しないのもボーダーラインの曖昧さ、よくいわれる医学部特有のさじ加減が含まれていることを暗示しているように映る。医学部を持つ某私大の職員は、「うちの大学の医学部は政治家や伝統芸能の世界と同じ」と明かすが、要するに二世、三世、世襲だらけということだ。
医師になるメリットは小さい?
このあたりの事情を映しているのか、医学部を十分に合格できる学力を持ちながら、医学部以外の理系学部を選択した学生、OBは醒めた見方をしている。
「医学部といっても上下の開きはある。それに親が病院を経営しているなど、なんらかのオプションがなければ、医師になるメリットはそれほど大きいとはいえない」(トップクラス私大理系大学院生)
出身大学の偏差値の上下は、医学界の強力な学閥と言い換えることもできるだろう。東大、京大及び旧帝大、私立では慶応義塾大が、その他のほとんどの大学を人事面で実質的に支配し、系列化しているのはよく知られたところだ。「ノーベル賞の山中伸弥博士のように純粋に学究の道に進めるのはひと握り。高給であることはわかっていましたが、一生病人に向き合わなければならない仕事ですからね」(慶応大理系OBの上場企業管理職)。高収入であっても、職種としての負荷が大きいということだろう。そうした年々増加しているといわれる医師への負荷の大きさは医療事故の数にも表れているようで、公益財団法人日本医療機能評価機構によれば、報告件数(報告義務のある医療機関のみ)は調査の始まった2006年の1296件に対して、13年は2708件と倍以上になっている。
いずれにせよ世間が抱く医師の世界へのイメージとその実態には、大きな乖離があるようだ。
【私立大医学系学部と非医学系理系学部の偏差値】
●医学系学部
慶応(72)、東京慈恵会医科(70)、大阪医科・前期(69)、順天堂(68)、日本医科(68)、関西医科(68)、自治医科(67)、昭和・1期(67)、近畿・前期(67)、日本(66)、愛知医科(66)、藤田保健衛生(66)、兵庫医科(66)、久留米(66)、北里(65)、東京医科(65)、東邦(65)、埼玉医科(64)、杏林(64)、東京女子医科(64)、金沢医科(64)、東海(63)、川崎医科(63)、福岡(63)、獨協医科(62)、帝京(62)、岩手医科(61)、聖マリアンナ(61)
●非医学系理系学部
慶応理工(66~69)、早稲田理工(65~69)、同志社理工(62~65)、東京理科理(62~64)、上智理工(63)、立教理(60~62)、明治理工(60~62)
※データは代々木ゼミナール「入試難易ランキング2014最終資料」による
(文=島野清志/評論家)