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なぜ朝日は謝罪すべきではなかったのか 情報提供者を裏切り、公権力の監視を放棄

文=井上久男/ジャーナリスト
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 リクルートの未公開株が政治家や官僚に渡り、権力者が濡れ手で粟の大儲けをした贈収賄事件、いわゆる「リクルート事件」は、1988年に朝日が調査報道で発掘したが、その際にも似たようなことが起きている。朝日が森喜朗自民党代議士(当時)に直撃取材した際に、「(リクルート創業者の)江副さんが公開すれば多少の小遣いになるって言ったんだ」と答えた。大疑獄に発展する前の段階である。不思議なことに、朝日がそれを報じる前に、この情報を知らない産経新聞に「未公開株、森代議士ももらう」といった記事が出た。そして、記事の中に「近く公開するとは知らなかった」との森氏のコメントが載っていた。森氏は朝日にうっかり本当のことを認めたものの、それが賄賂をもらったことを認めたことになるかもしれないと考え、息のかかった産経に「近く公開するとは知らなかった」と書かせたのであろう。公開しなければ、未公開株は実現利益とならないので、賄賂にはならないという論法でもある。権力を批判する取材ではこうしたことはよくあることだ(リクルート事件の報道に関する本記述は、同報道を指揮した朝日横浜支局元次長の故山本博氏が亡くなる直前の2013年4月、ジャーナリズム研究関西の会で講演した際の講演録から、事務局の了解を取って引用した)。

 朝日新聞吉田調書に関する調査報道に関して、捏造や重大な誤報はなかったのに、安易な謝罪をすべきではなかったのである。しかも、権力におもねるメディアの「後出しじゃんけん」に負けて謝ってしまった。この馬鹿げた判断は、後世に大きな禍根を残すであろう。
(文=井上久男/ジャーナリスト)

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