政府の円安誘導にしても、目標とする国内企業の輸出増加にはつながっておらず、かえって原材料費の高騰を招く円安デメリットが増幅する気配さえ生じている。すでに基礎体力の乏しい中小企業では、少なからぬ影響が生じている。各経済団体からも円安けん制の発言が相次いでおり、例えば日本商工会議所の三村明夫会頭は「1ドル107円1は、やや行き過ぎ」と語っている。
実際に経済の現場でも、アベノミクスに浮かれたひと頃のような楽観論は鳴りを潜めつつある。
「都心の好立地のマンションでも、今年下半期以降に販売を開始したものは売れ行きが振るわない。昨年の今頃には募集を開始するとすぐに完売ということも珍しくなかったのだが、今はいつまでも募集をかけている」(都心の不動産仲介業者)
「高額品の消費は一巡してしまった印象を受ける。結局、富裕層や財テク長者だけの“点の消費”にとどまり、より幅広い層まで広がる“面の消費”にはつながらないのでは」(専門店経営者)
揺らぎが目立つ指標の中で唯一好調といえそうなのが、9月後半に入って1万6000円台を回復した日経平均株価だが、10月に入り下落基調が強まり、14日には東京株式市場は約2カ月ぶりに終値が1万5000円を下回った。株価についても関係者の間ではさめた見方が多い。
「ここまで政府と日銀が全面支援をしても、小泉政権時代にさえ及ばないのかとやや失望している」(証券営業マン)
確かに現在とは逆に緊縮財政を行い、異次元緩和にも踏み込まなかった小泉・安倍第一次内閣の時代でも、平均株価は1万8000円台まで上昇している。ベテランの個人投資家は、先行きについてさらに懐疑的だ。「新規投資をするよりも、利益確定の時期に入ったと考えている。あのソニーが大幅赤字、無配に転落するくらいでは、先は知れている」
●不安なシグナルを示す政府公式見解
個別の指標ばかりではなく、景気循環や過去の景気回復局面との対比からも、アベノミクス景気の持続性には疑問符がつくようだ。