【北大生・イスラム国参加計画事件】公安がジャーナリストを強硬に逮捕して情報を奪取か?
では、何が罪に問われるというのだろう。
●潰された湯川遙菜さん安否確認のチャンス
常岡さんとその代理人弁護士によれば、北大生は8月11日に、まずはトルコに向けて出発する予定だった。その航空券の手配をしたのが8月5日。期日が迫っていることもあり、同じ便の航空券を入手するためには一緒に買った方がいいだろうということになり、クレジットカードを持っていた常岡さんがまとめて買った。数時間後には、その代金を北大生から返してもらった。捜索令状を出した裁判所は、北大生の「渡航」を私戦予備行為としており、その航空券の手配を代行してあげたことが、犯罪行為にされるようだ。
しかし、同行取材する側が、その便宜のために一緒にチケットを手配することが、果たして罪に問えるのだろうか。むしろ、警察の捜査のやり方からは、罪に問うような行為ではないことは知りつつ、この機に乗じて、常岡さんが集めた情報がほしい、というさもしい根性を感じてならない。
「イスラム国」に関しては、外交ルートなどでは情報が入らず、現地を取材できる常岡さんの情報は、諜報機関からは垂涎の的だろう。しかし、だからといって、ジャーナリストに対して強制捜査を行い、そうしたデータを力ずくで奪い取っていくのは、あまりに乱暴だ。そうやって取材源やデータを奪われるのでは、報道の自由は守れない。
また、情報収集のやり方としても、警視庁外事3課のやり方は、あまりに稚拙で横暴だ。常岡さんは、これまでも神奈川県警など他の警察や公安調査庁、自衛隊などから協力を求められた時には、できる限り応じてきた、という。
「取材源の秘匿は当然ですが、そうでないことは、拒否したことはありません。でも、警視庁公安部からは、ただの一度も協力を頼まれたことはありませんでした」
人の仕事の成果を、丁寧に頼んで教えてもらうのではなく、権力を使って無理やり奪い取る、というのが、警視庁公安部のやり方なのだろうか。むしろ常岡さんと信頼関係を作って情報提供をしてもらうなど、継続的な情報源とした方が、諜報機関としては遙かに上等だろう。
常岡さんが今月シリア行きを計画していたのは、現地の状況を取材するだけでなく、「イスラム国」に拘束された日本人、湯川遙菜さんの安否を確認するためでもあった。常岡さんと親しく、アラビア語に堪能なイスラム法学者の中田考氏が「イスラム国」側から、裁判の通訳を頼まれており、その中田氏も一緒に現地入りするはずだった。これが実現していれば、湯川さんの今の状況を確認することも可能だった。諜報機関としては、常岡さんの帰国を待って、情報提供を求めることもできただろう。警察は、その機会も、自ら潰してしまった。