しかし、採用側にとってみれば、履歴書や数度の面接だけでその人の経歴や過去の経験すべてを知ることはできませんし、本人があえて開示しない『知られたくない事情』にいたっては知る術がありません。そして、正式採用後にこれらの『知られたくない事情』が判明したとしても、解雇が厳しく制限されている現行制度では、なかなか辞めてもらうこともできません。
そこで、『採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できなかった事実』が判明し、それが『解約権の留保』という上記の最高裁の趣旨に鑑みて客観的に合理的と認められ、かつ社会通念上相当な場合は内定取消も認められるとされています。つまり、採用側にとっては履歴書や数度の面接だけではその人のすべてを知ることができないのだから、もし後から『ある事情』が判明したとして『面接時にそれを知っていたら君を採用しないよ』と言うことが客観的に妥当で、一般の人事担当者であればそうするだろう、という場合に内定取り消しが認められるということです」
では、今回の裁判は今後どのような展開が予想されるのだろうか。
「確かに内定時に判明していなかったとしても、『私はこれまで銀座のクラブでしか働いたことがありません』というものならまだしも、報道されているとおり『一時期アルバイト程度でやっていました』ということが、女子アナとして採用することをためらうような事情とはとても考えられません。日本テレビ側の内定取り消し理由は、しょせん『世間体を気にして』というレベルでしょうから、裁判の行方は同社側にとっては厳しい方向に進むのではないでしょうか」(同)
異例づくしの今回の事件、今後どのような決着をみるのか、しばらくは世間の注目を集めそうだ。
(文=編集部、協力=山岸純/弁護士、AVANCE LEGAL GROUP LPC 執行役員)