ICCは個人による集団殺害犯罪、人道に対する犯罪などの国際犯罪を対象とする国際機関だ。ICCに加盟していない北朝鮮に対する捜査には、安保理からの付託が必要となる。
12月の国連総会で北朝鮮の人権侵害非難決議が採択される見通しだが、安保理常任理事国の中国とロシアが拒否権を行使することはほぼ確実で、安保理が北朝鮮の人権侵害をICCへ付託する可能性はほぼない。
この外交ゲームのような状況で、実際にICCによる捜査へと発展しなくとも、今回の決議は「非常に重要な意味がある」と外務省関係者は言う。
「国連で、北朝鮮の人権侵害が『国家の最高レベルで決定された』と認定されました。すなわち、金正恩(キム・ジョンウン)第一書記が、大量虐殺を行ったナチスのヒトラーやユーゴスラビアのミロシェヴィッチと同じく、国際的な人道犯罪者であると名指しされたに等しいのです。指導者になったばかりの金正恩氏としては、ヒトラーと同列の犯罪者呼ばわりされるのは我慢できないでしょう。
北朝鮮は従前から金正恩氏を『国家の最高尊厳』と呼称しており、侮辱に対しては武力行使を含めた断固たる措置を取る態度を示しています。北朝鮮が国連の決議に際して核実験の実施を示唆してまで反対した背景も、この辺りにあるのではないかと思われます。ICCによる捜査の実現可能性にかかわらず、北朝鮮としては絶対に見過ごすことができない状況なのです」
●北朝鮮の人権侵害の実態
2008年に北朝鮮から脱出したAさんは、北朝鮮の人権侵害状況についてこう語る。
「そもそも北朝鮮には、“人権”という概念がありません。人民は金正恩第一書記の一族とその取り巻きに支配され、彼らに奉仕する存在でしかないのです。理由もなく逮捕され、収容所に入れられれば家族はバラバラにされます。満足な食料もないので、生きるために看守に身を売る女性も多いです。脱北しようとして警備兵に捕まり、目の前で妻と娘が性的暴行された事件もあります。こんな悲惨な話が北朝鮮では吐いて捨てるほどあるのです」