まず、なぜ今回衆院が解散されたのか、改めて振り返っておこう。
2015年10月に予定されていた消費再増税を17年4月へ延期することはほぼ確実となる中、選挙戦では争点にすらならなかった。しかし、1カ月半前までは15年10月の再増税実施は確実視され、解散などあり得ない状況だった。
安倍晋三首相が選挙期間中に明らかにしたが、財務省は再増税の必要性について「善意のご説明」を国会議員や地方議員、自治体首長、マスコミ、経済界などに行っていた。財務省の狡猾なのは、「ご説明」と同時に消費増税に伴う利権も配るのだ。例えば、消費増税になれば予算が増える、軽減税率を与える、法人税減税するといった内容である。
安倍首相は、こうした財務省の巧妙な「ご説明」を解散で吹き飛ばした。もし安倍政権が衆院を解散しないまま消費増税の凍結法案を準備していたら、財務省が自民党の増税派や民主党に根回しし、政局になって政権は倒されただろう。そうなればアベノミクスは終わり、消費再増税路線となっていたはずだ。
今年4月の5%から8%への消費増税は民主党の野田佳彦政権時に決定されたものであり、日本経済はデフレに逆戻りする寸前の事態に陥った。15年10月からの消費再増税が行われれば、日本経済は本当に沈没していただろう。結果としてその事態は回避されたが、今年4月の消費増税の影響は大きく、増税をしなかった場合と比べてGDPは15兆円ほど減った。圧勝した安倍政権がまず行うべきは、この失ったGDPを取り戻す補正予算と来年度予算の15カ月予算の編成である。これをうまく乗り切らなければ、景気回復が遅れて15年春の統一地方選に影響が出る。
財務省としては、消費増税のためには政権を潰してもかまわない。3%から5%への増税を決めた村山富市政権、それを実行した橋本龍太郎政権、そして5%から10%への増税を決めた野田政権が好例だ。安倍政権は5%から8%へは予定通り実施したが、10%への再増税はすんでの所で踏みとどまった。この意味で、初めて財務省の言いなりにならなかった政権だ。
●「財源不足」という嘘
財務省は「ご説明」において、「消費増税がなければ1.5兆円の財源不足になって社会保障の支出に支障が出る」と国会議員らを脅していたが、この程度の財源をひねり出すのはそれほど難しくはない。小泉純一郎政権時代に筆者は首相補佐官補としていわゆる「埋蔵金」を5年間で40兆円程度出した。現在簡単に捻出できるのは外国為替資金特別会計からである。なにしろ1ドル120円の円安なので、10兆円以上の含み益があるだろう。