それだけに、現役世代の地方移住が一定の人口移動をもたらせば、従来の公共工事主導型とは異なる地方再興のプロセスに期待できるかもしれない。
実際、現役世代の地方への移住志向は、どのような状況にあるのだろうか。
三菱総合研究所は、3大都市圏の30~40代で移住計画を持つ人は男女合わせて約43万人、移住の意向を持つ人は同約410万人と推計している。実際にこれだけの移住マーケットが潜在しているのかどうかはともかく、三菱総研の調査によると、移住希望者は「仕事」を重視しているようだ。
30~40代男性の地方移住希望者は「移住したいと思った理由」に「働き方を変えたい」「都市部の騒々しい暮らしが合わない」「広々とした住宅を確保したい」という点を主に挙げている。さらに「移住先の地域に対して貢献できると思う点」については「仕事で培った知識やノウハウ・技術」が最も多かった。
つまり、移住先で働きがいのある仕事に就きたいと考えているのだ。従来、都会から地方への移住を伴う転職は、どんな美辞麗句を並べても、「都落ち」の感が否めなかった。
しかし、今や雲行きは変わっている。管理職・グローバル人材に特化した会員制転職サイト運営会社・ビズリーチ(https://www.bizreach.jp/)の地方創生人材採用支援室長、加瀬澤良年氏は「現役世代が、やりがい転職に向かうようになった」と語る。
「地方への移住希望者には、特に1976年生まれの“76(ナナロク)世代”が多いです。76世代は大学卒業時に就職氷河期で、非正規社員として社会人生活をスタートした人が多く、その後もリーマン・ショックで失業するなど、社会に出てからあまり良い思いを経験していません。しかし、来年には40歳になるので、新しいチャレンジをしようとしています」
では、なぜ地方に向かうのだろうか。そこにも、76世代が過ごしてきた時代が投影されている。少し上の世代には「六本木ヒルズ族」が多く生まれ、彼らの拝金主義のむなしさを見ながら生きてきたので、転職であれ、起業であれ、金銭的な要素には特別刺激を受けないのだという。
現役世代と地方自治体のマッチングを行うビズリーチ
加瀬澤氏はこう続ける。
「76世代は国のため、子供のため、次世代のために何かをやりたいというマインドが強いです。明治維新を起こした幕末の志士と似たようなマインドで、新しい仕事にチャレンジしたいと考える人が多いのです」
そのマインドが、地方再生という時流にマッチしたようだ。地方自治体も都会でもまれてきた現役世代を求めており、ビズリーチは両者のマッチングを行っている。
例えば、島根県隠岐郡海士(あま)町の求人だ。海士町は小学校を中心にキャリア教育を充実させる「初等教育コーディネーター/中等教育コーディネーター」「公立塾の教科指導責任者」、さらに地方創生のリーダー育成プログラムを創設する「大学プロジェクト推進リーダー」を募集している。また、宮城県牡鹿郡女川町では被災地の定住人口増加を目指す「教育事業マネージャー」を募集している。
ビズリーチは、こういった地方自治体やNPO団体の求人案件を掲載しており、求職者への説明会などを開催してマッチングしていく方針だ。まだ、76世代の動向が地方再生の中でクローズアップされるには及んでいないが、今後、世代論の対象となるぐらいの存在感を示してほしい。
(文=編集部)