「いま北海道で何が起こっているのか」。道内のオモテもウラも知る元道警警部が、ディープな視点でモラルや治安が低下する北の大地の体制を憂う――。
減ることがない警察不祥事
北海道で生まれ育ち、北海道警の捜査員として20年以上を過ごした私は、最近「北海道の質の低下」を感じない日はない。読者の皆さんは、北海道に対して、なんとなくのんびりしたイメージを持たれていると思う。たしかにのんびりしているのだが、最近はそうも言っていられない事態が起こり始めているのだ。
JR北海道の事故の多発は報道の通りだし、農協改革に対するホクレン(ホクレン農業協同組合連合会)の悪あがきは見ていて悲しくすらなる。
さらにいえば、私の古巣である警察の不祥事である。これは道警だけではなく警察全体の問題ではあるのだが、日本の犯罪の件数は1955年をピークに減り続けているのに、警察不祥事だけは上昇傾向にある。2013年と14年は若干減ったが、それでも処分を受けた300人のうち、セクハラや盗撮などの「異性問題」が80人と最も多数を占める。
そんな中で警察不祥事の都道府県別では、北海道警28人がワースト3。それを上回るのは、警視庁が最多で46人、大阪府警37人だ。ただし、これら警察は職員の人数が多いからでもある(それにしても件数は多いが)。13年の不祥事を職員1000人あたりの人数に換算すると、岩手県警3.975人、鳥取県警3.458人、三重県警2.910人と多い順となっている。要するに、私の事件【編註:プロフィール欄参照】を含めて「過去の教訓」が生かされず、改革されていないということなのだと思う。
遅すぎた警察の市民に対する警鐘
道警でいえば、こうした警察の体たらくとリンクして、昨秋からの危険ドラッグ騒動が拡大している。
道内では、薬物事件といえば、覚醒剤と大麻の検挙件数がほとんどで、危険ドラッグはそれほど問題になっていなかった。だが、14年9月に札幌市内で危険ドラッグ「ハートショット」を吸引した12人が交通事故を起こしたり、心肺停止になって救急搬送されたりする事件が相次いだ。
札幌中央署は「ハートショット」の害についてある程度は把握していたはずだが、動きは鈍かった。
もちろん捜査の実務の問題はある。薬物は専門機関で成分を分析するのに1カ月程度はかかってしまう。特に危険ドラッグは成分が一定しておらず、同じ「ハートショット」でも、12人に被害を与えたものが同一製品ではない可能性が高い。
しかし、厳密に成分がわからなくても、早い段階で「ハートショットらしきもの」を吸引した疑いのある人間がどのような症状になっているかを発表し、市民に「絶対に購入・使用しないように」と広報することくらいはできたはずだ。現場にあったドラッグのパッケージや販売店名を公表してもいい。そうすれば12人もの犠牲者を出さなくても済んだかもしれない。
昨年は危険ドラッグの使用によると思われる死者が112人に上ったが、まったく懲りていないようで、今でも手を出す人間がいる。北海道では、今年に入ってすでに逮捕者が出ている。登別市の道央道上り線を盗難車で逆走して逮捕された男は、自宅に危険ドラッグを所持していたとして麻薬取締法違反と医薬品医療機器法(旧薬事法)違反の容疑で再逮捕されている。
私がS(スパイ)として使っていた元ヤクザは、「危険ドラッグは品質が一定していないので、ヤクザは手を引き始めている」と話していたが、買い手がいる以上、売り手もいなくならないということだろう。また、取り締まりにより販売店は減ったが、ネット通販や直接届ける方式が増えている。
これに対して、道警は何の対策も講じていないどころか、新年早々、札幌東署の巡査が強制わいせつ容疑で逮捕されている。報道によれば、小樽市内の路上で1人で歩いていた高校2年の女子生徒を歩道脇の雪山に押し倒し、体を服の上から触るなどのわいせつな行為をしたという。こんな体たらくでは危険ドラッグを取り締まるどころではないと思うが、どうか。
全国的に警察官のワイセツ事件が増えているが、道警はワイセツ以外でも不祥事が多い(私の事件も含めて)。北海道という地域性と関係があるのかないのか、そんなことも考えながら、今後も検証していきたいと思っている。
(文=稲葉圭昭/元北海道警察警部)
●稲葉圭昭(いなば・よしあき)
1953年北海道生まれ。76年に北海道警採用。「銃器対策のエース」として銃器捜査暴力団捜査に力を注ぐ一方、自ら覚醒剤の使用や密売に手を染め、03年5月に懲役9年・罰金160万円の刑が確定。本件がきっかけで組織ぐるみの不正経理が発覚し、北海道裏金事件に発展した。出所後に上梓したベストセラー『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』(講談社)のコミック版が『実話ナックルズ 漫画BAD(バッド)』(ミリオン出版)で連載中。