昨年12月、「ペヤングソースやきそば」の麺の部分にゴキブリが混入していたという投稿がTwitter上で拡散されて大騒動になりました。製造元のまるか食品は「混入した疑いがないとは言えない」とコメントし、同商品は回収されて現在は製造・販売共に中止しています。
当初、まるか食品は「ゴキブリの混入は考えられない」という見解を出していましたが、1週間経過してから「製造過程での混入の可能性は否定できない」という判断を示し、最終的に製造中止を発表しました。
食品を製造する工場内にゴキブリが生息しているかどうかは「ごきぶりホイホイ」(アース製薬)のようなモニタリング装置を設置し、定期的に歩行性の昆虫の捕獲状況を確認、記録しておく必要があります。
そして、ゴキブリなどの虫が製品に混入していた場合、過去1年間のモニタリング装置の捕獲記録を公表すべきです。はじめから「ゴキブリ混入の可能性はない」と答えるのではなく、「当工場では、過去1年間において歩行性の昆虫は捕獲されていません」と言えるような用意をしておかなければならないのです。飲食店の厨房の場合も、従業員が「ゴキブリを見かけたことがない」と胸を張って答えられる環境が必要です。
ゴキブリが侵入しない構造とは
そもそも、食品工場はゴキブリやねずみが侵入できないような構造になっていなければいけません。例えば、従業員の靴の裏に虫の卵がついたまま工場内に運び込まれることなどがないように、駐車場から入り口に至るまで、工場内の敷地は舗装されている必要があります。
従業員が履いてくる外靴と、工場内で使用する作業用の靴は、同じ場所で管理していてはいけません。外靴と近い距離に作業靴が保管されていると、工場内に虫の卵や異物が持ち込まれる可能性があるため、それぞれの下駄箱は適切な距離を保つことが必要です。外靴を脱いだら外靴専用の下駄箱に保管し、その後、少し歩いて作業靴用の下駄箱に行き、そこで作業靴に履き替えるという流れが理想的です。
資材などの搬入口や製品の出荷口は、虫やねずみが上がってこないように地面から1mほど高くなっているのがベストです。従業員の出入り口やボイラー室などにおいても、同様です。工場によっては、フォークリフトで資材などを搬入するために搬入口が地面と同じ高さになっている場合がありますが、それでは虫やねずみなどの侵入を防ぐことはできません。
設備を設置する時の注意点とメンテナンス
狭い空間が好きなゴキブリは、壁とポスターの間にも巣をつくります。幅木に貼ったステンレスや壁材の割れた部分の隙間、冷蔵庫を設置した壁や床との隙間にも巣をつくり、卵を産み、繁殖します。
当然ですが、飲食店の厨房内には冷蔵庫などの設備があり、冷蔵庫と壁や床の隙間は食品残さと呼ばれる廃棄物で汚れています。そこで、十分に清掃する必要がありますが、冷蔵庫と壁や床の間に十分な空間が確保されていることが大切です。
冷蔵庫と床の間は15cm以上、冷蔵庫と壁の間は人が入ったり手を伸ばして清掃できるぐらいの隙間が必要です。十分な空間が確保できない場合は、簡単に動かせるように工夫して、定期的に移動して清掃するようにしましょう。
炊飯器、電子レンジ、冷蔵庫など、厨房で使用している設備は定期的に分解して掃除することも必要です。それらのドアやモーターに付着している食品残さを餌にして、ゴキブリは巣にしてしまうからです。冷蔵庫のドアのパネルの中にゴキブリが巣をつくり、厨房内がゴキブリだらけになってしまった事例もあります。
厨房内で使用していない設備でも、常に通電している電気製品は注意が必要です。パソコン、テレビ、DVDデッキなどは、最低でも年に一回は分解し、内部のほこり等を清掃しましょう。
ゴキブリはどうやって侵入してくるか
新設された工場や飲食店の中に、ゴキブリはどのように侵入してくるのでしょうか。それには、3つの方法が考えられます。
1.地面を歩いて侵入してくる
2.空を飛んで窓から侵入してくる
3.使用する原料や従業員のかばんなどに卵がついて持ち込まれる
それぞれのケースを考えてみましょう。
1.地面を歩いて侵入してくる
玄関や搬入口が舗装されていて地面から1m以上高くなっていれば、歩行による侵入は防げます。また、工場の周辺は壁面から50cmほどは舗装されていることも必要です。
2.空を飛んで窓から侵入してくる
一般的に、気温が28℃以上になると、ゴキブリが空を飛びやすくなるといわれています。ただし、工場や飲食店の厨房には網戸などもあるでしょうし、ゴキブリが飛んで侵入してくるというのは、非常にまれなケースだと思います。
3.使用する原料や従業員のかばんなどに卵がついて持ち込まれる
新設工場のモニタリング装置に、ゴキブリが多数捕獲されている場合があります。新設工場に既存の工場から設備を移動する時に、設備内に残っているゴキブリの卵などが一緒に持ち込まれてしまうからです。同じように、パレットやコンテナ等を新設工場に搬入することで、ゴキブリの卵を持ち込んでしまうケースもあります。原材料に使用しているダンボール箱の隙間にゴキブリの卵が付着し、工場内に持ち込まれることもあります。では、どうすればいいのでしょうか。
「包装室」で包装資材を使用する場合、ダンボールごと持ち込むのではなく、中身だけ取り出して運びます。なぜなら、ダンボールは「包装材料搬入口」から持ち込まれて一度「包装材料庫」に置かれているからです。また、「包装室」で残った包装資材は、「包装材料庫」に戻さないで「使いかけの包装材料庫」に戻すべきです。
家庭のシーンを考えてみましょう。外に持ち出したかばんや荷物などを何気なく電車や会社、喫茶店の床などに置くことがあると思います。そこでかばんにゴキブリの卵が付着した場合、そのまま家の中に持ち込まれてしまいます。帰宅した時、靴は脱ぎますが、かばんの下面をふいてから家の中に持ち込む人は少ないでしょう。
ゴキブリを見かけたら、どうすべきか
ゴキブリはサルモネラや黄色ブドウ球菌など細菌の塊です。そして、食品残さがある家庭の台所や店舗の厨房に多く生息します。適温で保管していない食品の上をゴキブリが歩き、細菌が増殖するのに十分な時間がたった後にそれを食べてしまうと、食中毒が発生してしまいます。ゴキブリは衛生的にも心証的にも、飲食店や食品工場に生息していてはいけないものなのです。
一般的に、食品工場などでは防虫の専門業者による点検を毎月行っています。防虫業者は「ごきぶりホイホイ」のようなモニタリング装置を設置して、ゴキブリが捕獲されていれば、巣を駆除して発生を防ぎます。しかし、巣を発見するのは容易ではありません。
ゴキブリの糞を探し、尿のにおいをかぎ、巣を突き止めるには経験が必要です。多くの防虫業者は、巣を探すことをあきらめ、殺虫剤を厨房内に噴霧する対症療法を行ってしまいます。しかしそれは、風邪をひくたびに病院で薬をもらうだけで、生活習慣を改めるなど風邪をひきにくい体質にすることを怠っているようなものです。しかも、食品を扱う工場や厨房内で殺虫剤を使用するのは、安全性の面から見ても疑問が残ります。
ゴキブリを見かけたり、モニタリング装置に捕獲されていることを確認した場合は、厨房や工場の中を徹底的に清掃することが必要です。前述のとおり、壁に貼ったポスターの裏側はもちろん、積み重ねられたダンボール、新聞紙の束の中にも巣が作られるので、定期的に清掃します。また、ゴキブリの卵は孵化するまでに2週間程度かかるので、週に一度は清掃が必要になります。
新聞などの紙製品はゴキブリの餌になることもあります。厨房や工場内に新聞紙やダンボールは持ち込まず、発生したごみなどは1週間以上放置しないことが大切です。ゴキブリの生息が確認された食品工場や厨房では、殺虫剤を使用することなく、徹底した清掃で対応するべきです。
(文=河岸宏和/食品安全教育研究所代表)