同じく昨年12月には、日清食品冷凍の冷凍パスタの具材(野菜)にゴキブリと思われる虫が混入していたことを受け、同社は約75万食を回収すると発表。さらにまるか食品もカップ焼きそば「ぺヤング」のゴキブリ混入問題で生産休止と商品回収に至っている。
このように、食品への異物混入事件、及びそれに関する消費者から企業へのクレームが相次いでいます。その背景には、携帯電話のカメラなどで証拠写真を簡単に撮影でき、インターネット上で誰でも情報発信できるようになったため、以前では一部の人しか知りえなかった情報を多くの人が入手できるようになったことが大きいと思います。
食品工場へのクレームは、管理が行き届いた工場で100万パック製造して1件以下のクレームの発生率、即ち1ppm(パーツ・パー・ミリオン)以下の発生率になります。管理が行き届いた工場でも、クレームをゼロにすることは非常に難しいのです。異物混入防止の面では、金属検出機やエックス線探知機で検出ができる大きさの金属異物の入った製品は、市場に出荷してはいけません。確実に検出機で問題のある製品を排除すべきです。「ぺヤング」に混入していたとされるゴキブリなどの虫の混入は、確実な工場管理を行えば必ず防ぐことができます。
健康被害が考えられないクレーム
一方、異物混入問題を報じる側のメディアは、入ってはいけない人体に危害のある異物クレームが発生しているケースなのか、クレームの発生率が10ppm以上の工場管理が非常に悪いケースなのか、きちんと報道すべきだと思います。
例えば、牛丼チェーンの店舗で牛丼を頼んだ時、牛肉とタマネギの間にゴキブリの足が挟まっていたとします。どう見ても挟まっていたゴキブリの足は、熱が加わっていました。あなたは店員に対してどのように振る舞いますか。
牛丼は大きな寸胴なべで、タマネギと牛肉を煮ています。牛丼を盛りつけたどんぶりの上に煮た形跡のないゴキブリが乗っていれば、盛りつけられたどんぶりだけを廃棄すれば鍋の中は問題ないのですが、熱の通ったゴキブリの足が入っていたとすれば、鍋の中には胴体と他の足が入っている可能性があります。「ゴキブリの足が入っていました」とクレームを付け、クレームを受けた店員が同じ寸胴から再び牛丼を提供しようとしていれば、それを見た客は「その鍋からは勘弁してよ」と要求すると思います。
加熱されているゴキブリの足を食べたとしても、健康被害が出る可能性は低い。ポテトサラダの中に加熱されていないゴキブリが入っていれば、食中毒菌が増殖してしまう可能性がないわけではありませんが、加熱してあれば問題ありません。もっとも、健康被害は考えられませんが、客の気分を悪くするので、同じ鍋の商品は提供すべきではありません。
しかし、食品工場に対しゴキブリ混入のクレームがあった場合、それまでゴキブリが入る環境で製造された製品をすべて市場から回収するという処置は行き過ぎです。
市場回収判断の区分
食品工場で製造した商品を市場から回収する場合は、クレームの内容によって判断すべきだと思っています。
(1)健康被害が考えられるクレーム
(2)客が不快に思うクレーム
(3)対象商品だけのクレーム
(4)消費期限、賞味期限に関するクレーム
(5)客の要因として考えられるクレーム
(1)健康被害が考えられるクレーム
以下の場合、該当ロットは市場から即座に回収すべきです。
・食品工場の製品で農薬、殺虫剤、化学薬品、洗剤などが混入した可能性があり、健康被害が考えられる量の混入の可能性がある場合
・ガラス、金属などの破片が製品に混入し、健康危害が考えられる場合
・製品に表示してあるアレルゲン物質と異なるアレルゲン物質が、製品に混入されてしまった場合
以上のような健康被害が考えられる場合は、報道機関と協力し、あらゆる方法で周知し、該当する商品を消費者が食べないようにすべきです。しかし、果たしてビニール混入の商品まで回収すべきか、議論が必要だと思います。
(2)客が不快に思うクレーム
健康被害がないと考えられても、消費者はゴキブリが入っていた即席麺、コオロギが入っていた離乳食は食べたくないものです。問題があった商品の原因追究を確実に行い、次回からも自社の製品を買い続けてくれるように誠意を持って対応すべきです。
食品工場では、虫が発生していないかをモニタリング(観察し記録すること)しています。混入した虫が工場内では過去において生息していないことを客に示すことが必要なのです。ゴキブリのモニタリング結果で生息が認められていれば、「工場で混入した」と指摘されても否定はできません。特に虫混入のクレームを否定するためには、工場内のモニタリングで過去数カ月にわたり混入した虫等の生息がなかったことを示す必要があります。
食品工場で使用するビニールシート、手袋などは、製品に入った場合に見つけやすい色を使用しています。クレームが発生した場合でも、混入したビニールが工場で使用している物か、していない物かがすぐにわかるように、使用しているビニールの材質、色、厚さなどを把握し、工場で混入する可能性があるものかないものか即座に判断できるようにしておくべきです。
ビニールクレームが発生した場合は、混入ロットを明確にし、他の製品にも混入の可能性があれば、市場回収を行うべきです。市場回収の規模を小さくするためにも、製造ロット、原材料使用のロットはなるべく細かく把握を行う必要があります。
(3)対象商品だけのクレーム
「お弁当に髪の毛が混入していた」「ポテトサラダに髪の毛が混入していた」といったクレームは、クレーム対象品のみの混入の可能性が非常に大きいです。お客に現在の管理状況、今後の対応について誠意を持って説明し、理解していただくしかないのです。
(4)消費期限、賞味期限に関するクレーム
「消費期限 2115年2月5日」と消費期限を100年間違えたお弁当を製造してしまったとします。現在の対応はすべて市場回収を行っていますが、明らかに誰でもが間違いだとわかる日付ミスは、ミスをしている旨を表示してそのまま販売しても良いと思われます。確かに法律上は間違えていますが、なんでもかんでも回収すればいいという風潮には疑問を感じます。
(5)客の要因として考えられるクレーム
「お弁当を食べていたら、金属が入っていた」というクレームがあり、入っていた金属を調べると、その人の虫歯の治療に使用する金属だったというクレームがあります。調査結果を客に伝えても反応がない事が多いです。「お弁当にステープラーの針が入っていた」というクレームに対応するために、パンの製造工場、弁当の製造工場は事務所を含めて建物全体でステープラー使用禁止の工場が多くあります。
客がクレームで伝えてきた物が工場には存在しない状況をつくり出し、第三者から見て「製造工場で混入したのではない」と断言できる環境をつくることが、製造者側では大切なのです。
(文=河岸宏和/食品安全教育研究所代表)